弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2020年7月28日

逆転勝利を呼ぶ弁護

司法


(霧山昴)
著者 原 和良 、 出版 学陽書房

勝訴・有利な和解に持ち込む弁護のスキルというのがオビのフレーズですが、まさしくそのとおりの内容が見事に展開されていて、私は大変勉強になりました。
序文に、「まだまだ未熟な弁護士」だと著者は謙遜していますが、どうしてどうして弁護士生活25年というまさに油の乗り切った大ベテランですし、味わい深い文章のオンパレードのため、私などはいたるところに赤エンピツでアンダーラインを引いてしまいました。それほど含蓄深くて、何度も読み返したくなる本です。
負け筋の事件は、どう負けるかが問題で、上手に負けて依頼者の被害を最小限にとどめる必要がある。そして、負け筋事件は、小さな失敗の中で教訓を学んで成長し、大きな失敗を回避する絶好の機会だ。
勝訴判決を得るためには、法的安定性を重視する裁判官がもっとも抵抗なく受け入れやすい論性を組み立てていく必要があり、そこにプロフェッショナルとしての知恵が求められる。
世の中の紛争は、0か100かでは、いかにも妥当性を欠く事案がほとんどだ。なので、和解をうまく利用し、うまく負けて、実質的に勝つという工夫が求められる。
弁護士は依頼者との関係で、勝つことよりも、結論に至るプロセスが決定的に重要だ。訴訟は、当初の予想どおりに進むとは限らないが、そのときどきで依頼者に適切な情報を提供し、共有していくことが、実は「勝つ」ことよりも大切なことだ。
控訴理由書は長ければいいものではない。基本的な観点や事実を、分かりやすい言葉で、また分かりやすい比喩(たとえ)を使って裁判官の心に伝えることが大切だ。
人権弁護士は常に労働者側でなければならないというのは誤解だと著者は主張します。私もまったく同意見です。横領など、労働者側に非がある事件も多々あり、企業がその秩序を守るために適切な防御措置をとるのは組織として当然のこと。そして、それが他の労働者の権利や利益を守ることにもつながる。私も同感です。
事件を通じて自分の仕事ぶりを評価してくれる依頼者を増やすことは、きわめて大切だ。これまた、まったくそのとおりです。
別荘地の管理費訴訟は現在、冬の時代だと著者は言います。どうやら管理会社の管理費用請求が認められることが多いようです。しかし、マンション問題のエキスパートでもある著者は、別荘地の管理も、昔とちがって今ではマンション管理と同じように考えてよいのではないかと主張してよいと言います。このような著者の意見は合理的だと思うのですが、裁判所は別荘地は金持ちの道楽という意識が強いようで、管理会社が苦労して管理しているのだから、その苦労に「タダ乗り」せず、管理料くらい支払えとすることが多いのだそうです。
九州でも別荘地の分譲にともなうトラブルが多発した時期がありましたが、別荘地の管理会社とのトラブルというのは聞いたことがありませんでした。その点でも本書は大いに参考となります。
ヒマな弁護士には大切な事件は頼むなと私は先輩弁護士から叩きこまれました。忙しいからこそ感覚が鋭敏となり、限られた短時間のうちに要点を把握し、主張・反論の骨子を組み立てることができる。まことに、そのとおりです。まさしく運命のいたずらが時に顔を見せるのです。
著者の扱った7つの実例を紹介しながら、そこから教訓を引き出しています。プロフェッショナルとしての弁護士を目ざす人に強くおすすめの一冊です。
佐賀県出身であり、東京で(ときには海外まで)大活躍している著者から贈呈していただきました。いつも、ありがとうございます。
(2020年7月刊。2600円+税)

  • URL

カテゴリー

Backnumber

最近のエントリー