弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2020年7月26日

日本中世への招待

日本史(中世)


(霧山昴)
著者 呉座 勇一 、 出版 朝日新書

日本史、とりわけ日本中世の人々の暮らしの様子がよく分かる新書です。大変勉強になりました。
戦後日本は女性天皇を認めていませんが、かつて日本にも、女性天皇が何人もいました。すると、女性天皇は「中継ぎ」にすぎないという見方が生まれたのでした。これが通説になっていましたが、今では、それは否定されています。
現実の日本の歴史において、女性天皇は自分の政治的意思を発揮し、大きな権力を行使した。遣隋使を派遣した推古天皇もそうだし、律令国家の基礎を築いた持統天皇もそうだ。女性天皇は決して中継ぎなどではなく、男性天皇と対等の存在だった。
女性天皇を認めないというのは、明治以来のことですから、たかだか160年ほどの歴史しかないのです。ですから、それは、むしろ「日本古来の伝統」に反したものなのです。
古代の日本では、夫婦は必ずしも同居しない。夫の側に複数の相手と肉体関係が認められているのと同じように、女性の側も複数の男性との肉体関係をもつことができた。いわば、多夫多妻的な性格があった。
前近代を通じて、貴族や武士であっても、夫婦は別の氏を名乗っていた。
キリスト教宣教師であるルイス・フロイスは、『日欧文化比較』のなかで、日本では離婚が自由なのに驚いている。これは、日本では堕胎が簡単にできることと関連している。女性は、これによって容易に性交渉ができた。つまり、性愛の自由をもっていた。
中世の絵巻物には、女性に一人旅がしばしば描かれている。これは、女性の性愛の自由を意味している。
ところで、フロイスが語っているように、妻の側から離婚を切り出すことが本当にできたのか、著者は首をかしげています。
鎌倉時代の武士は漢字をよく書けなかったようです。遺言書も、平仮名だらけで書いています。なぜ自筆で書くのかというと、それは偽造されるのを恐れてのこと。鎌倉幕府の法廷では、筆跡鑑定もやられていました。武士の識字能力が高まるのは、恐らく室町時代以降のこと。
日本中世の実際をさらによく知る格好の入門書です。大ベストセラー『応仁の乱』の著者による本でもあります。
(2020年2月刊。850円+税)

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