弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2020年7月19日

スマホの中身も「遺品」です

社会


(霧山昴)
著者 吉田 雄介 、 出版  中公新書ラクレ

スマホは使えないし、使う気もない私ですが、世の中はスマホ「万能」かのような状況になっています。そして、スマホのなかに、何から何まで自己情報が詰まっているとしたら、それが本人が亡くなったあとどうなるのか、本書は鋭く問いかけています。
怪し気なサイトを利用していたことは知られたくないというのであれば、そんな情報は人知れず消えてなくなればいいだけです。ところが、積極財産に関するものであったとしたら、相続人にとっても大損失を蒙ることになります。なんとかして情報を再現しようとするのも当然です。ところが、それが意外にも簡単なことではないというのです。では、どうしたらよいのか...。
いま、遺品は目に見えているものだけではない。スマホやパソコンの中に保存されている写真やメール、各種のデータ、インターネット上にあるフェイスブックやツィッターといった自分のSNS頁などもれっきとした遺品だ。これらは、いわゆるデジタル遺品。
スマホのセキュリティは、かなり堅牢だ。データは暗号化されていて、特殊な鍵を用いて開かないと取り出せない。パスワードが分からなければ、第三者には開けない。FBIでも他人のスマホは開けなかったほどだ。
FX取引で遺族宛に高額の請求書が届くことは、めったにない。しかし、逆に仮想通貨交換業者に相続人が自己のものとしてできるのかということが問題になる。遺族が秘密鍵を知らないと、そのまま引き出せないことが起こりうる。ところが、税務当局は価値あるものとみなして相続税をかけてくるという悲劇が起こりかねない。
契約者本人が亡くなったら、その時点で残高を保有する権利は消滅してしまうという約款のものは多い。つまり、相続人に権利を渡すことは想定されていないのだ...。
著者は、やってはいけないことを指摘しています。①使用中のスマホをすぐ解約してしまうこと。②全体像を見る前に個別の処理をすすめていくこと、これらは、まずいこと。
スマホの中身が「遺品」だとして、その扱いに悩むことになるようです。
(2020年1月刊。880円+税)

  • URL

カテゴリー

Backnumber

最近のエントリー