弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2020年7月 1日

母がしんどい

人間


(霧山昴)
著者 田房 永子 、 出版 角川文庫

母と娘の関係も、父と息子の関係にまさるともとらないほど難しいのですね。
この文庫は、コミック・エッセイなので、パラパラと読めますが、そこで描かれている情景は、あまりに重たくて、どうにもたまりません。
まわりから見ると、仲良し親子。だけど、「お母さん、大好き!」って思ったことがない。
なんの問題もない、しあわせ家族。だけど、実は、お父さんとしゃべったことがない。会話は、いつもお母さん越し。
お母さんは、いつも「あなたのため」と言う。だけど、本当に私のためなの? お母さんがやりたいから、やっているとしか思えない...。
マンガで描かれているので、視覚的に問題状況が理解できます。いやあ、これって、子どもには大変な試練だな...と思ってしまいました。
親がしんどいという気持ちに苦しんでいる人が、なぜ苦しいかというと、親からフェアではない目にあわされてきているから。一方的にいろいろされてきたうえ、なぜか「おまえが悪い」という言葉によって、その責任を押しつけられる、つまり、いきなりに「加害者」として扱われてきたことによる。
「自分が悪い」というのが基本にある考え方がしっかり身についているから、家庭の外に起きることまで、すっかり「自分が悪い」で片付けるようになってしまう...。
「おまえが悪い」という親の言葉を「自分が悪い」として生きていると、親と一心同体の状態にあるのと同じ。なので、まずは親から自分を引き離す作業が必要。「おまえが悪い」というけれど、そうしたのは親なのだ。つまり、ちゃんと被害者の立場に立ち切ることが大切。
ちょっと前まで、娘が母親を非難・批判するなんて許されないことだった。まして「毒母」なんていう言葉を投げつけるなんて、とんでもないことだった。でも、昭和が終わり、平成になってまもなくから、それが可能になった...。
「母の愛」と信じてきたものが、実は、「母による支配」だったと自覚することによって、母から離脱し、人間として自立できる。ということのようです。同性である母と娘の関係のむずかしさを少しばかり実感して理解することができました。
では、父親(夫)は、どうしたらよいのか...。この本の解説は、父親に期待することは、ただひとつ、ちゃんと母親(妻)をケアしてもらいたいということ。
うむむ、これまた簡単そうで、実は、そんなに容易だとは思えません...。
時宜にかなったマンガ・エッセイの文庫本だと思いました。
(2020年2月刊。600円+税)

「デンジャー・クロース」というベトナム戦争を扱ったオーストラリア映画を博多駅の映画館でみました。ベトナム戦争は私の大学生のころ、何度となく「反対!」を叫んでデモ行進をしたものです。
この映画は、オーストラリア軍がベトナム戦争に加担していたこと、南ベトナムで北ベトナム正規軍2000人からオーストラリア軍中隊108人が包囲・襲撃されて残った「ロングタンの戦い」を実写化しています。
オーストラリア軍がベトナムに派遣されていたことを詳しくは知りませんでした。陸・海・空の3軍あわせて5万人も派兵していて、450人の戦死者、そして2400人もの戦傷者を出しています。
この「ロングタンの戦い」は、まだオーストラリアでのベトナム反戦運動が盛んになる前の、1966年(昭和41年)8月18日に起きました。オーストラリア軍の戦死者は18人。みんな20歳前後の若者です。これは私とほぼ同じ年齢(1歳か2歳だけ年長)です。
そして、北ベトナム軍の戦死者は確認されただけでも245人。1割以上です。
「デンジャー・クロス」(極限着弾)とは、味方に対して超至近距離で砲撃することを要請すること。味方の小隊がこの砲撃で全滅してしまう危険もあるもの。
ベトナム戦争を描いたものとして、迫真の場面の連続で、すっかり固まってしまいました。

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