弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2020年6月21日

法の雨

司法


(霧山昴)
著者 下村 敦史 、 出版 徳間書店

司法、つまり裁判官と検察官、そして弁護士の三者が登場する推理小説です。ネタバレはしたくありませんが、弁護士一筋の私からすると、高検の検察官がマル暴対策の警察官と組んで暴力団事務所に乗り込むというストーリー展開は、いくらなんでも...、という違和感がありました。
それでも、法曹三者のかかえている問題が市民向けに語られているところは、なるほど、そうも言えますかね...、と思わざるをえませんでした。
まずは裁判官です。たいていの裁判官は検察官の主張に首の下までどっぷり浸っていて有罪判決を連発するばかり。ところが、たまに無罪判決を次々に書く裁判官がいます。この本では、「無罪病判事」として揶揄の対象になっています。1人で15件も無罪判決を書いたから、検察官は「病気」(偏見をもっている)だと決めつけているのです。
有名な木谷元判事は何件の無罪判決を書いたのでしたっけ...。
検察が起訴した事件の有罪率は99.7%。検察庁内では、3回も無罪判決を受けた検察官はクビになると、まことしやかにささやかれている。恐らくそんなことはないと思いますが、無罪判決が検察庁に打撃を与えることは間違いありません。
それにしても、「無罪病判事」は、疑わしきは罰せず、というキレイゴトを馬鹿正直に守ったことの結果だという表現があるのは弁護士の一人として悲しくなります。それは、何も検察側に「完璧で無欠な立証を要求」しているのではありません。有罪立証すべきは検察であり、それに合理的な疑いが存在したら無罪とすべきなのです。
検察官のバッジは秋霜烈日(しゅうそうれつじつ)と呼ばれている。秋の冷たい霜や夏の激しい日差しのごとき厳しさが職務に求められているということを意味する。
検察官バッジがくすむにつれ、青臭い正義感は経験と引き換えに失ってしまった。
そして、弁護士。成年後見人に弁護士が職業後見人として選任されている。しかし、この成年後見人制度は、高齢者や障害者を苦しめる制度だ。それを知らず、大勢がすがって、被害にあっている。現状は、まともに機能していない。
これは、なんと手厳しい。しかし、この評価は、被後見人の財産を利用したいという立場の親族によるものだと思います。そんなにひどい制度だとは私は考えていません。
国も自治体も銀行も不動産屋も、こぞって成年後見人制度を推進している。しかし、それは現実を何ひとつ知らない人々が安易に申立して、被害にあっているのだ。
さすがに、それは言い過ぎだと、今も成年後見人を何件かつとめている身として、思います。
ストーリー展開には違和感をもちつつ、いったいこの先どうなるのか興味深々で、最後の頁まで一気に読了してしまいました。
(2020年4月刊。1600円+税)

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