弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2020年5月14日

「大東建託」商法の研究

社会


(霧山昴)
著者 三宅 勝久 、 出版 同時代社

「サブリースでアパート経営」に気をつけろ、というサブタイトルのついた本です。大東建託だけはなく、大和ハウス、東建コーポレーションそしてレオパレスも取りあげられています。この本を読むと、素人がアパート経営に手を出すと、それこそ火傷(やけど)で重傷を負うことが多いと思わされます。
実は、私も大東建託を相手として契約解除を求めて交渉したことがあります。なにしろ70歳代後半の素人の男性が1億円をこす建築費を借金してアパート経営に乗り出そうというのですから、初めから無謀というしかありません。その男性はストレスのあまり病気になりました。そのこともあってなんとか契約解除にこぎつき、家族からは大変喜ばれました。
たとえば大東建託は次のように提案します。
木造アパートを1億3000万円でつくる。毎月90万円の家賃収入があるから、銀行への返済分60万円を差し引いても、手取り25万円になる。
大東建託が一括借り上げて家賃を支払ってくれると思って安心していると、入居者が減るなか、途中から家賃収入が減額される。文句を言うと、会社から「将来の収入を約束したものではない」と冷たく事務的な文面が返ってくる。そして、一括借り上げ契約が解除されてしまう...。
これでは、トホホ...ですよね。
圧倒的に巨大な企業と銀行が、ほとんど無防備の一市民に高額かつ高リスクの商品を売りつけ、資金を貸しつけて高い利益をあげる。その結果、家主がどんな目にあおうと知ったことではない。あとは野となれ、山となれ...だ。
ランドセット方式なるものもある。第三者所有の土地をあらたに購入して、そこにアパートを建て、大東建託が一括借り上げて、経営するというもの。
アパート建築の総工費8000万円。家賃保証があり、毎月10万円の利益(手残り)が出る。家賃保証があると言って安心させる。しかし、1億円の借金で、月の手残りが10万円ということは、利回りでみると1%。そんな事業は初めから無理。木造アパートは22年で減価償却が終わる。すると、それ以降はそれより格段に高い所得税を支払わなくてはならなくなり、収支がマイナスに転じる。
高齢の土地所有者の息子が協力を断ったときには、身内を養子縁組させてまで借金させようとする。あまりにも無茶苦茶だ。
大東建託が建てたマンションが欠陥マンションだった話も紹介されている。
そして、大東建託内での社員に対する壮絶な社員教育に名をかりた「いじめ」も発生する。契約締結を大東建託では「一筆啓上」と呼ぶ。また、大東建託では、新規客に対して嘘も方便として平気だったが、社内でもパワハラ、セクハラが横行していて、病気になった社員も多い。
基本給28万円のうち、営業手当が11万円。これが6ヵ月無契約だと6万円減り、さらに無実績10ヶ月になると、トータルで11万円減って、手取りは10万円ほどとなる。
ハローワークの求人広告はウソ、インチキだった。
この本を読んで、アパート経営を口実とした新手(あらて)の詐欺商法だと私はますます確信しました。
(2020年3月刊。1500円+税)

  • URL

カテゴリー

Backnumber

最近のエントリー