弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2020年4月 7日

病気は社会が引き起こす

社会


(霧山昴)
著者  木村 知 、 出版  角川新書

 今や全世界がコロナ・ウイルスの恐怖に震えています。この情勢にぴったりの本です。ですから、もちろんコロナ・ウイルスのことを論じた本ではありません。その前に起きたインフルエンザ大流行をきっかけに病気の原因と対策を考えてみたという本です。
 著者はカナダ生まれの外科医です。この本には、なるほど、なるほどと思うところが多々ありました。
カゼのクスリは、カゼを治す効力はもっていない。そもそも、自己防衛反応ともいえる発熱や咳を、解熱剤や鎮咳薬で無理に抑えこもうとするのが間違い。そんな薬はカゼに効かないばかりか、むしろ各成分による副作用のほうが、よほど心配だ。
医師はカゼを治すことはできない。カゼへの対処法は服薬ではなく、休息だ。熱、ノドの痛み、鼻汁、咳、痰といった不愉快なカゼの症状は、ウイルスを排除するための免疫反応の結果、つまり自分で自分を守るための自己防衛反応とも言える。発熱で体温を上げて、ウイルスの活動をおさえる、鼻づまりで、さらなる異物の侵入を防ぐ。鼻汁とくしゃみと咳で異物を体外に排除する。このような自浄作用である症状を薬でなくそうとすること自体がナンセンスなのだ。カゼのときくらい、ゆっくり休める社会に日本も変わっていくべきときではないか...。
インフルエンザかどうかではなく、体調不良のときには、自分自身の安静のためにも、周囲への感染拡大を防ぐ意味でも、何をおいてもまず休む。これが大切だ。職場や学校は、そのように休むべき人を積極的に休ませるという体制を早急につくりあげなければならない。なるほど、これが一番大切なことですよね。発想を切り換える必要がありますね。
アメリカには日本のような国民皆保険制度はない。アメリカの保険未加入者は2810万人で、全国民の9%に近い。しかも保険に加入していても、保険会社が保険金の支払いを拒否する事例が少なくない。病気になっても十分な医療が受けられなかったり、高額な医療費のため家屋を手放さざるをえなくなるなど、医療をめぐる格差問題は深刻だ。
マイケル・ムーア監督の映画『シッコ』(2007年)は、アメリカの医療制度がいかに金持ち優遇のシステムなのかを白日のもとにさらけ出している内容で、見ているとゾクゾク寒気がしてきました。日本はアメリカのようになってはいけないのです。
日本の生活保護制度の運用における最大の問題点は、微々たる不正受給問題よりも、本来なら受給して然るべき境遇の人が支給されないまま放置されていること。生活保護費が高いのではなく、年金や最低賃金が低すぎるのだ。
本書で指摘されていることは、しごくあたりまえのことだと思いますが、そのあたりまえのことが残念ながら見過ごされていると思いました。
(2019年12月刊。840円+税)

  • URL

カテゴリー

Backnumber

最近のエントリー