弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2020年3月23日

キリン解剖記

生物


(霧山昴)
著者 郡司 芽久 、 出版  ナツメ社

子どものころからキリン大好きだった著者が、死んだキリンの解剖に明け暮れ、ついに大変な発見をしたという話です。好きなことに打ち込めるって、すばらしいことですね・・・。
この本に登場するのは、ひたすら死んだキリンの解剖の話だけです。いえ、キリンと対比させるため、オカピとかコビトカバも登場します。でもでも、主役はあくまでキリンなのです。
大人のキリンの身長は、メスで4メートル、オスだと5メートルにもなる。
体重はオスで1200キロ、メスで800キロ。車1台分くらい。
キリンの首の長さは2メートル。重さは100キロから150キロ。頭の重さは30キロ。
明の時代、アフリカにまで遠征した鄭和(ていわ)は、ケニアからキリンを持ち帰り、永楽帝にキリンを献上した。うひゃあ、知りませんでした・・・。
キリンの寿命は、動物園で飼育して20年から30年。
解体と解剖は、似ているが、まったく違う。解剖には知識も技術も必須。身体の構造が頭に入っていなければ、解剖はできない。
キリンは1種だけと思われてきたが、今では4つの集団に分けられている。アミメキリン、マサイキリン、ミナミキリン、キタキリン。日本にはアミメキリンとマサイキリンの2種のみ。マサイキリンは、ギザギザした不規則な形の斑紋をもつ。アミメキリンは、多角形の斑紋から構成される、きれいな網目模様をもつ。
キリンが亡くなるのは冬に多い。すると、解剖するのは、クリスマスも正月もなく1週間ぶっ通しですることになる。すべてはキリン最優先の生活だ。
キリンの第1胸椎が機能的には「8番目の首の骨」である。これを著者は実証したのです。
キリンの第1胸椎は、決して頸椎ではない。肋骨があるので、定義上は、あくまで胸椎。しかし、高い可動性をもち、首の運動の支点として機能している。キリンの第1胸椎には、胸椎ではあるが、機能的には「8番目の首の骨」なのだ。これは、キリンが首を動かすときには、頸椎だけでなく、第1胸椎も動いているということ。
キリンが高いところの葉を食べ、低いところの水を飲むという相反する2つの要求を同時にみたすためだ。
キリンは、水を飲むために頭を下げるだけで、5メートルほども頭の位置が変化する。キリンが頭を下げたときには、血圧が急上昇する。一度下げた頭を再び上げるときには、頭部の血圧が急減少する。
日本に現在いるキリンは150頭。これは584頭のアメリカについで、世界第2位(2011年)。野生のキリンは10万頭、過去30年間で4割も減少した。
著者のつとめる博物館には、「3つの無」という理念がある。無目的、無制限、無計画。たとえ今は必要がなくても、100年後、誰かが必要とするかもしれない。それで、標本をつくり、残し続けていく。それが博物館の仕事だ。
正月返上でキリンの解剖を1週間もぶっ通しで敢行するなんて、並みの人間にはできませんよね・・・。科学の進展には、こんな地道で粘り強い研究が必要なことを自覚させられました。
それでも明るく調査、研究をすすめている著者の姿を想像して、救われました。
(2019年9月刊。1200円+税)

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