弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2020年3月17日

最期の言葉の村へ

人間


(霧山昴)
著者 ドン・クリック 、 出版  原書房

パプアニューギアの奥地に入り込んだアメリカ生まれのスウェーデン人の人類学者によるルポタージュです。
パプアニューギニアは、世界のどの国よりも多くの言語を有している。カリフォルニア州くらいの面積に800万人あまりが住み、そこには1000以上の異なる言語を話す人々がいる。それは、方言とか変種というのではなく、まったく別の言語だ。その言語の多くは、たいてい500人ほどしか話さない。
1985年以来、パプアニューギニアの奥地の村ガプンにのべ3年間ほど滞在した。村人は、白人である人類学者を幽霊だと思っていた。
1942年、日本軍はパプアニューギニアにも侵攻して、いくつもの基地をつくった。
ガプンのコトバであるタヤップ語を話す人は、多いときで150人ほどだった。いまやトク・ピシンはパプアニューギニアで400万人が話している。共通語になっている。
タヤップ語では、日本語と同じく「アール」と「エル」を区別せず、どちらの発音でも通じる。
ガプンでの生活にこの人類学者が順応するのは難しかった。常にものを与えなければならなかった。性生活は欠如した。ガプンの女性は死者とみなされた人類学者を誘うこともなかった。蚊に悩まされ、泥も大変だった。そして、現地の食べ物を食べるのは、きわめて困難だった。ゆでたツカツクリ(鳥)の卵。卵といっても、ヒナの状態になっているもの。これを現地の少女は目を輝かせて食べる。また、サゴゾウムシの幼虫を生きたまま、おやつとして食べる。ゆでても食べる。ナッツのような味がして、バター風味だ。カブトムシの幼虫も食べる。
現在、言語は前例のないスピードで消滅している。言語学者は、世界の6000の言語のうち、90%が絶滅の危機にさらされていると推測している。ひとつの言語が消滅するとき、独特で、繊細で、複雑で、昔からあるものが永遠に失われてしまう。
この人類学者はマラリアに5回、デング熱に2回かかった。何度も熱帯潰瘍にもかかった。そんな著者が、なんとかタヤップ語の文法を習得したのでした。
タヤップ語を話すガプンの人々は、決して手つかずの未開人ではない。そして辺ぴな奥地に住むすべての人々は、植民地主義や資本主義的搾取によって、ひどい扱いを受けている。その結果もたらされたのは、幸福とはほど遠い。
著者は大金をもっているという噂が流れて若者チンピラ5人組に襲われたのでした。
アマゾンの奥地と同じように、現代文明との接触を断って生活している人々がいるんですね...。世界は広くて、深いことをちょっぴり実感させてくれた本です。
(2020年1月刊。2700円+税)

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