弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2020年3月15日

みみずくは黄昏に飛びたつ

人間


(霧山昴)
著者 村上 春樹・川上 未映子 、 出版  新潮文庫

川上未映子が村上春樹にインタビューしたのでした。村上春樹は、私と同じ団塊世代の人間です。ノーベル文学賞に何度も名前が登場しましたが、もうダメなんでしょうね...。
私は、実は、村上春樹の小説はほとんど読んだことがありません。食わず嫌いの典型です。
「マジックタッチ」がないと、お金をとって人に読ませる文章は書けない。大事なのは「マジックタッチ」で、これがないと作家にはなれない。
ええっ、「マジックタッチ」って、一体何なの...。
事実としては何ひとつ足したり引いたりしていない。ただ、その人のボイスを、より他者と共鳴しやすいボイスに変えているだけ。そうすることによって、その人の伝えたいリアリティがよりリアルになる。
最初にまず、ひととおり書いておいて、それを何度も何度も書き直して、磨いていって、ほとんど、このまま永遠に手を入れ続けるんじゃないかと心配になるくらい手を入れていくうちに、だんだん自分のリズムというか、うまく響きあうボイスになっていく。目よりは主として耳をつかって書き直していく。
私も似たような感じで書いています。何回も何回も書き直しています。
自分が納得いくまで時間をかけて書き直し、そこで初めて活字になる。
本を好きになるっていうことは教えられない。好きになりなさいと強制することもできない。すべての偶然が一致して、本と出会わなければ、本の世界を熱烈に求めていく魂でなければ、書きつづけるというところには行かない。
村上春樹は一度も病気したことがない。入院したことがないし、寝込んだこともない。風邪をひくのは4年か5年に1回くらい。そして、フルマラソンを毎年ひとつは走っている。
私も46年間、入院したことありませんし、仕事を休んだこともありません。少し寒気がしたなと思ったときには、卵酒をつくって飲んで、いつもより早く寝ます。すると、だいたい5日でフツーに戻ります。マラソンしない代わりに、週1回、30分間で1キロ、泳ぎます。これが健康・疲労のバロメーターです。無理しないこと、強すぎるストレスを自分にかけないことにしています。
村上春樹は手を使って文章を書くことによって物を考える人間だ。私は、原稿は完全に手書きです。赤川次郎もそうだったと思うのですが、村上春樹はパソコンなのでしょうね...。
小説になるには、半年から1年、1年から2年という歳月がどうしても必要になってくる。
村上春樹は1日に10枚は書く。何はともあれ、10枚は書く。長編小説は、ワンテーマでは絶対にかけない。出だしは少なくとも三つ。三つあると、三角測量みたいな感じで、立体的に進めていける。
小説は馬鹿でも書けないし、賢(かしこ)すぎても書けない。その兼ねあいが難しい。
長編小説の最終には、ポジティブなものを残しておかないとダメだと思う。もし、それが悲劇的なエンディングであったとしても、それは次の段階にしっかりつながっていくものでなければならない。長編小説は、書くのも大変だけど、読むのだってすごい作業だ。なので、そのすごい作業を終えた人に対する、ある種の報酬というものがどうしても必要になってくる。
これには、私もまったく同感です。やっぱり読者としては最後には、何か「救い」を求めたいです。疲れたまま、突き放されては恨みが残ってしまいます。
何もかも忘れて神経を文章に集中していると、厚い雲間から太陽の光がこぼれるみたいな感じで、自分の意識の情景がさっと俯瞰できる瞬間がある。
チャンドラーは、「私にとって眠れない夜は、太った郵便配達人と同じくらい珍しい」と書いた。こんな、はっとするような比喩を書くことが作家に求められる。
さすがに村上春樹って、いろんなことを考え、工夫して書いていることがよく分かるインタビューです。
(2019年12月刊。750円+税)

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