弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2020年3月10日

寅さんの人生語録(改)

人間


(霧山昴)
著者 山田 洋次、朝間 義隆 、 出版  PHP文庫

映画『男はつらいよ50、お帰り寅さん』をみました。元気一杯の寅さんに再び映画館の大スクリーンで会うことが出来て、思わず涙があふれてきました。
初めて寅さんに会ったのは1969年夏、大学3年のときのことです。その後、司法試験の勉強の合い間にも頭を休めに新宿までみに行きました。そして、結婚して、子どもたちが一緒に行けるようになると、正月休みの恒例でした。
寅さんが映画のなかで語ったセリフを紹介した本です。人生って、いったい何なのか、よくよく考え抜かれた珠玉の言葉が並んでいます。さすが山田洋次監督です。単なる喜劇映画ではないことを改めて実感させてくれます。
といっても、残念ながら私の周囲の20代くらいの若い人には映画館はもちろんのこと、テレビでも寅さんの映画を一度もみたことがないという人ばかりなので、とても残念です。
寅さんが隣のタコ社長の営む印刷工場に働く若者たちに「労働者諸君」と呼びかけ、笑いが起きます。このセリフは山田洋次監督の脚本にはなかった。撮影現場で、渥美清がふと口にしたアドリブである。
森川さん(おいちゃん)が「馬鹿だね」も同じくアドリブが脚本にとり入れられた。
御前様(笠智衆)が、寅さんの後姿を眺めながら「困った」と熊本なまりでつぶやくのもアドリブ。名優は、脚本家が及びもつかないような素敵なセリフを現場で吐くものだ・・・。
寅さんのタンカバイの文句も、渥美清が少年時代に実際に大道で商売をしている香具師(やし)から聞いていたのを思い出してもらってセリフにしたもの。
「ほら、いい女がいたとするだろう。なあ?男がそれを見て、ああ、いい女だなあ、この女を俺は、大事にしてえーそう思うだろう、それが愛っていうもんじゃねえか」(『柴又より愛をこめて』)
「秀才よ、法律の勉強してるの」
「へーえ、悪いことしよってのか?」(『寅次郎恋愛塾』)
「大学へ行くのは何のためかな。何のために勉強すんかな」
「ほら、人間、長いあいだ生きてりゃ色んなことにぶつかるだろう、な。そんなときに、俺みたいに勉強してない奴は、この振ったサイコロで出た目で決めるとか、そのときの気分で決めるよりしょうがないんだ、な。ところが、勉強した奴は、自分の頭でキチンと筋道を立てて、はて、こういう時はどうしたらいいかなと考えることができるんだ。だから、みんな大学へ行くんじゃないか、だろう?」(『寅次郎サラダ記念日』)
「人間は、何のために生きてんのかな」
「うーん、何て言うかな、ほら、ああ、生まれて来てよかったなって思うことが何べんかあるじゃない、ねえ。そのために人間、生きてんじゃないのか」(『寅次郎物語』)
50話もある、本当にいい映画シリーズをありがとうございます。
(2019年12月刊。740円+税)

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