弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2020年2月28日
合併の代償
社会
(霧山昴)
著者 伊原 亮司 、 出版 桜井書店
日産全金プリンス労組の闘いの軌跡。これがサブタイトルの本です。
私が弁護士になったころ、日産には吸収されたプリンス自動車にあった闘う労組がごくごく少数ながらもがんばっていると聞いていました。その活動の軌跡を詳しく紹介した本です。
日産には塩路一郎という労組の絶対的権力者がいて、またカルロス・ゴーンがいました。
日産という会社は、絶大な影響力をもつ実力者を生み出しては権力闘争の末に失脚させ、「上」から「改革」させる過程で再び権力者を君臨させる、という派手な歴史を繰り返してきた。
この本では、ごくごく少数ながらも会社にもの申す労働組合、そしてそこの人々の存在意義を明らかにしようとしています。
現在、労働組合を軽視する風潮は強い。しかし、かといって過酷な職場環境や劣悪な労働条件が改善されたというわけではない。むしろ、雇用不安はおさまらず、ハラスメントやうつ病に悩まされる人々は増加傾向にあり、過労死や過労自殺に追い込まれる人は後を絶たない。
したがって、少数派の存在を無視するのは適切ではない。
プリンス自動車工業という会社が存在した。そのルーツは飛行機会社である。中島飛行機は敗戦の年(1945年)4月には、500の工場と25万人の従業員をかかえる巨大企業だった。
日産と合併するとき、プリンス自工は、日産と比べて規模が小さいとはいえ、従業員8500人という大会社であった。そして、技術力に絶対の自信をもっていた。宮内庁へもニッサンプリンスロイヤルという車を納入していた。
1965年(昭和40年)の合併のとき、日産の労組は同盟傘下で労使協調路線をとっていたが、プリンス側は、総評全金に加盟し、階級闘争的な労組だった。
プリンス自工支部は、合併に対して無条件に反対していたわけではない。
日産側は、プリンス自工支部の執行部には見切りをつけ、中央委員や代議員そして現場監督者層にターゲットを移した。執拗に接待して切り崩していった。
「日産学校」なるものを連日開き、「勉強会」という名目でオルグしていった。
全金組合員は5段階に区分された。Aは完全な日産派(行動派)、Bは、日産派を理解している者。Cは、まだどちらとも区分できない者。Dは全金や中執を支持している者。Xは共産党員や同調者。DやXに区分された者は実力で排除されるようになった。
旧プリンスの労働者にとって、労働条件は軒並み悪化した。諸手当をふくむ賃金や退職金は切り下げられ、労働時間は延長、終日・休暇の条件は悪くなった。日産側は、労働条件が劣ることを自覚していて、その点には触れないようにしていた。
プリンス自工支部は1966年4月に7656人いたが、支部に残ったのは152人(あとで143人)だけだった。20年後には71人の組合だった。中卒45人、高卒20人、大卒3人。ほとんど現場の労働者だが、少数ながら技術員と事務員もいる。女性は7人だけで、みな事務員。職場であからさまな暴力が横行した。連日の暴力行為は1ヶ月ほどでおさまったが、そのあとは、「職場八分」となった。人間関係から完全に排除された。仕事も干しあげられた。監視され報告された。
職級も賃金も露骨に差別された。教育・訓練・資格取得の機会も奪われた。
反撃として、地労委への申立、裁判闘争がたたかれた。
1967年12月から翌1月にかけて現場で相次いで労働者が亡くなった。労組は労働条件の改善にとり組んだ。全金支部は大学生とも交流を図り、また婦人部を再建して地域に出ていって訴えた。女性の定年差別撤廃に取り組んだ。
塩路一郎が1986年に失脚した。
そして1993年1月、全金支部は会長と協定書を結び、「和解」が成立した。ただし、支部内にはしこりが残った。「和解」のあと、職場内で謝罪する者がいたり、気兼ねなく話せるようになっていった。親睦会にも参加できるようになった。
全金プリンス自工支部からJMIU日産支部への発展過程まで、あとづけられていて、その苦労をしのぶことができました。大変な労作に敬意を表します。
(2019年12月刊。3800円+税)
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