弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2020年2月27日

地面師たち

社会


(霧山昴)
著者 新庄 耕 、 出版  集英社

東京・五反田の一等地600坪を舞台として積水ハウスという超大企業が詐欺集団にうまうまと63億円という大金を欺しとられた事件が起きて、世間を驚かしました。
この本は、その実際の事件をなぞるようにして、地面師たちの生態を読み物にしています。
なるほど、地面師グループというのは、こんな役割分担をしながら綿密にことをすすめているものなのか・・・。かなり具体的なイメージをつかむことができ、大変勉強になりました。
なりすましについては、本人確認に不備(過失)があったとして、弁護士そして司法書士に高額の損害賠償を命じた判決もありますので、私にとっても決して他人事(ひとごと)ではありません。
指の腹や掌(てのひら)に、アメリカの専門業者から取り寄せた超極薄の人工フィルムを貼っている。これは最新のフィルムで、表面には架空の指紋や掌紋の凸凹がほどこされていて、人間と同じ皮脂成分の油膜が塗られている。
印鑑登録証明書、登記事項証明書、固定資産評価証明書、固定資産税明細書、運転免許証、実印、物件の鍵・・・。いずれも道具屋によって精巧につくられた偽造品だ。
実印は、最新の3Dプリンターで寸分たがわずに偽造し、運転免許証に至っては、本物と同じICチップが組み込まれている。これらは、素人目で本物とは見分けがつかない。
本人確認は、免許証の顔写真と見比べる。干支(えと)を言わせる。2枚の写真を見せて、どちらが自宅かを答えさせる。それでも騙しに成功することがある。
成功率を高め、突発的なトラブルに対応できるよう、毎回緻密に計画を立て、入念に準備する。無用な心配をいだかずに仕事に没頭でき、慣れあいになることもなく、ある種の緊張感が常にあふれている。役割分担し、それぞれ決めたことだけを着実にこなしていく。必要以上に干渉しあわない。
この本のストーリーでは、騙しとった7億円の分配は、首謀者が3億円、交渉役の二人がそれぞれ1億円ずつ、裏方の手配などをした人間が1億5千万円、「売主」を確保して演技指導する役割をした人間が5千万円。資金洗浄を経て、それぞれの架空口座に振り込まれる。首謀者以外は、しばし国外に脱出して、ほとぼりのさめるのを待つ。
こういう連中をのさばらせておいたらいけないよね・・・と思いつつ、腹立たしい思いに駆られながらも、最後まで一気に飛ばし読みしました。
(2019年12月刊。1600円+税)

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