弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2020年2月16日

熊の皮

アメリカ


(霧山昴)
著者 ジェイムズ・A・マクラフリン 、 出版  早川書房

アメリカはアパラチア山脈の自然保護区で働く管理人が密猟者とたたかう話(小説)です。
狙われるのは熊です。それもクマの胆をとって、中国に売りつけようというのです。これには驚きました。なんだか、ひと昔前のアメリカと中国とは逆の関係だったことを思い浮かべてしまいます。
野生動物やその身体の一部の密輸は、麻薬、偽造物、人身売買に次いで、世界で四番目に大きなブラックマーケットへ発展している。そこからは、毎年、数十億ドルの利益が生み出されていて、テロ組織や伝統的に違法薬物のみを扱ってきた犯罪組織がこぞってこの業界に参入しはじめている。
熊の胆は、通常、冷凍または乾燥の処理をほどこしてから売りに出される。ところが、冷凍した豚の胆のうと熊の胆のうを見分けるのは専門家でも難しい。乾燥した豚の胆のうに至っては、同じく乾燥した熊の胆納とまるで見分けがつかない。
主人公は、うっそうと木々が生い茂る森のなかにずんずんと入っていき、密猟犯を追いつめるべく森に溶け込み、森と同一化していくのでした。
大地の香り、朽ちゆく動物の死体の肉の腐敗臭、野生動物の体毛の感触、東部山岳地帯に特有の湿気と熱気。ひんやりと肌をなでるそよ風、かすかな木もれ日、夜の闇、虫の音や鳥のさえずりまでもが、じかに感じとれそうだ・・・。
自然を愛する著者の森に対する畏怖と敬意とがありありと伝わってくる本です。
(2019年11月刊。1900円+税)

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