弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2020年2月 5日

日本の社会史、負担と贈与

日本史(中世)


(霧山昴)
著者 吉村 武彦、峰岸 純夫ほか 、 出版  岩波書店

「おおやけ」という日本語は、大きい宅(やけ)、すなわち共同体聚落の一番大きい家、首長の家を意味し、そのことで首長に代表される共同体をも含意していた。
年貢と公事(くじ。雑役ともいう)があった。公事のなかには雑公事(ぞうくじ)と労働供給する夫役(ぶやく)があった。年貢には、米で納める「見納」(けんのう)と、さまざまな雑物を米換算して納める「色代」(しきだい)があった。
有徳銭(うとくせん)は、有力者(富裕者)の負担義務を指す。有徳銭の徴収は、社会的分業の発展により、土豪・承認・手工業者などの手元に富の集積がなされる鎌倉末期以降に登場した課税である。集落ごとに有徳人の選定がなされ、その有徳状況によって上・中・下にランクづけがなされた。
出挙(すいこ)とは、利息付消費貸借であり、無利息消費貸借を意味する借貸(しゃくたい)に対立するもの。出挙は、人頭別におこなわれ、春に貸付けられて、秋に利息をつけて返納された。出挙の年利率は5割から3割になったりして、3割で定着した。
御救(おすくい)は、近世領主に課せられた社会的責務であって、百姓の側は、一般的な農政だけでなく、その時々に応じて感触できる救済物を求めた。たんなる理念ですますだけでは近世百姓は納得しなかった。
無尽(むじん)、頼母子講(たのもしこう)は、中世のごく早い時期からはじまり、現代の信用組合にまでつながる、もっとも長い生命をもつ庶民金融機関である。近世村藩の百姓たちは、この資金調達法によって、特別の出費や負担を切り抜けることが多かった。
土地の所有に関しては、開発したものこそ、その土地の本来の持主(本主)であり、その土地の所有が他家に移転しても、そこに魂の残る潜在的所有権があるという土地所有概念が確固として存在した。したがって、関東地方の農民にとって、完全な所有権の移転を意味する土地売買はありえないもの、また出来ないものという観念が強かった。
売却地には、なおその元の所有者の本主権が残るという土地所有観があった。また、同じようにして質地は流れないという観念が強かった。
日本を知るには、このような日本古代史にさかのぼることなしにはありえないということを実感させてくれる本でした。これも一泊ドッグで読了した本の一つです。
(1986年11月刊。2900円+税)

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