弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2020年1月22日

倒産手続の課題と期待

司法


(霧山昴)
著者 伊藤 眞、園尾 隆司、加々美 博久 、 出版  商事法務

企業倒産の第一人者である多比羅誠弁護士の喜寿を記念した論文集です。
私は最後の第13章にある「多比羅誠弁護士の事件処理」から読みはじめました。
東京の酒類販売業者が倒産したとき、5億円をこえる売掛金債権をなんとか営業を続けながら回収していった例が紹介されています。破産して営業終了となったあとで破産管財人が債権を回収しようとしても、その回収率はとても低くなるのが必至です。そこで、破産宣告を受けても営業継続の許可を裁判所からもらっておき、破産者代表者の長男などに受け皿会社を設立させ、そこへ営業譲渡したのです。受け皿会社に、経営破綻の責任をとらせるべく、「簿価100%」で売掛金と在庫を引きとらせました。結局、最後配当の配当率は6%以上だったというから、たいしたものです。
太陽電池パネルにつくる会社の倒産では、新しいスポンサーをどうやって見つけ、確保するかについて工夫がなされました。新しくスポンサー会社として名乗りをあげた会社に秘密保持契約書をもらって資料を開示します。そして多比羅弁護士は、その会社にまっとうな数字を出すよう強く迫るのです。1億円以上、それを書面にして社長自ら持参することを求めます。そうでなければ保全管理人には取り次げないと断乎たる対応をします。8000万円の回答が出たら、ダメと断り、1億円でもダメ、1億5000万円を求め、ついに1億1500万円で話がまとまります。この譲渡価額は当初申出額の20倍まで引き上げられたのでした。
中小企業の倒産において特定調停を申立したケースもあります。そして、この特定調停が不成立となって、すぐに破産申立しますが、その手続のなかで事業譲渡を成功させました。これって、大変な裏技ですよね・・・。民事再生法の下での事業譲渡より、破産手続のなかでの事業譲渡のほうが、裁判所の許可だけで可能になるというメリットがあることを私は初めて知りました。
医療法人が倒産したときには、スポンサーとなった医療法人の代表者が新しい社員として入社し、再生計画が認可されたら、旧社員は全員退社して経営権を譲渡したというケースの紹介もあります。そして、このときスポンサー契約書は、新しいスポンサーが作成して提出した最終提案書を別紙として添付する形にして、わずか1頁ですませたというのです。これは、契約書の調査・確認の手間を省けて、短期間ですばらしい成果をあげることができたのでした。
多比羅弁護士は、「事業を再生できないか、その可能性が1%でもあれば、途中であきらめずに真剣につきつめよ。破産は、いつでも、誰でも出来る」というのをモットーにしているそうです。なるほど、ですね。すごいですよね、実際にたくさんの成果をあげているのです。
多比羅弁護士は22期ですから、私より4期先輩になります。私は日弁連倒産法制改正問題検討委員会でご一緒しました。多比羅弁護士が委員長で、私は単なるヒラ委員の一人です。ただ、私のほうは個人破産について豊富な実践例をもとにして、発言していました。
多比羅弁護士は企業倒産分野の第一人者として、数多くの立法提言をしてきました。
多比羅弁護士が関与した主な倒産事件の一覧表が末尾にありますが、会社更生事件10件、民事再生事件43件、和議事件11件、強制和議事件2件、会社整理事件5件、破産管財人33件、特別清算事件18件などなど、その量と質に圧倒されてしまいます。
園尾隆司弁護士(元・東京地裁破産部)は、倒産法における即時抗告と執行停止効を論じています。要するに、韓国を除いて、即時抗告があれば一律に執行停止を認めるのを原則としているのは、世界中で日本だけということを明らかにしています。このとき、台湾の倒産法やドイツ倒産法の改正についても、きちんとフォローしているところは、さすがです。
福岡の黒木和彰弁護士(日弁連消費者問題委員長)は、特定適格消費者団体による破産手続申立の可能性を探る論稿をよせています。
さすがに幅が広いと驚嘆したのは、伊藤眞・東大名誉教授がビットコインと倒産法制の関連で論じていたり、宇宙ビジネス事業者が倒産したときにどうなるのか、という論稿まであるのです。
さらに、アメリカで大規模法律事務所の破綻が相次いでいるとのこと、そのとき弁護士が移籍することになるわけですが、さて報酬請求権はどうなるのか、という問題です。
堂々720頁をこす大作です(定価も1万円)。クレサラ問題の冊子(1000円)を送ったら、そのお返しのようにして贈呈していただきました。どうぞ、これからもお元気に大活躍していただきますよう祈念します。ありがとうございました。
(2020年1月刊。1万円+税)

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