弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2019年12月26日

裁判官失格

司法


(霧山昴)
著者 高橋 隆一 、 出版  SB新書

元裁判官が31年間の裁判官生活を振り返って書いた本なので、タイトルにあるように失敗談のオンパレードかと思うと、決してそうではありません。むしろ、裁判官だって人の子、いろんな裁判官がいるし、事件もさまざまという、裁判を取り巻く実情を率直に語っています。
ですから、まったくタイトルどおりの本ではありません。
人間として立派な先輩裁判官が著者の身近にいて、そのためかえって煙たがられていて、残念だった。犯罪をおこした人の気持ちを理解して、その更生のための手助けをしようとする熱心な裁判官たちが裁判所のなかで意外に冷遇されているのを見た。
この尊敬すべき先輩裁判官は青法協(青年法律家協会)に入っていたため、上から目をつけられて、どの裁判所に行っても合議裁判に入れてもえないという差別を受け続けた。
信念を貫き、人間の更生そして人権擁護に熱心な裁判官が冷遇されるのを身近に見ると、多くの裁判官は委縮してしまい、モノを言わなくなってしまいます。今の裁判所は、まさに、そんなモノ言わない裁判官ばかりが多数で大手を振っています。ところが、彼らは権力への忖度を無意識のうちにしているので、権力に迎合しているという自覚すらないことがほとんどです。
このことは、原発差止を認めた樋口英明・元裁判官の講演を聞いて、ますます確信しています。もちろん、それって残念なことです。青法協会員裁判官の「退治」(ブルーパージ)は、もう30年以上も前に起きたことですが、今に尾を引いているのです。
裁判官のなかには、パチンコ好きの夫婦で、月に10万円以上もつぎこむ人がいるし、酒好きで、朝からコップ酒をあおり、酔ったまま法廷に出る裁判官もいた。妻子ある身で行きつけのスナックのママと無理心中した裁判官がいるという話もある。
昔、熊本地裁玉名支部に大石さんという裁判官(故人)がいました。私は個人的には大好きでしたが、朝の法廷で酒の臭いをプンプンさせているというので、新聞沙汰になったことがあります。
女性の裁判官が増えていて、判事補のなかの女性の比率は2005年には24.4%だったが、2015年には35.6%にまで伸びている。
国の重大な決定に裁判官が逆らうことができるのか、これは実に悩ましい問題だ。つまり、権力(首相官邸)との癒着があり、忖度があるというのが現実です。
著者は、国の重大な決定に背く判決を書けるのか、そんな勇気を裁判官は果たしてもてるのか、司法権の独立が試されている、そう書いていますが、権力をもつ人間(そして金持ちも)に対して逆らう判決・決定を書くのは大変な勇気があると刺激的な文章でしめています。
ぜひ、あなたもお読みください。
(2019年12月刊。830円+税)

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