弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2019年12月24日

徴用工問題とは何か?

日本史(戦前)


(霧山昴)
著者 戸塚 悦朗 、 出版  明石書店

安部首相は徴用工問題について、日本は何も悪くない、完全解決ずみのことを蒸しかえしている韓国が悪いと高言し、日本のマスコミのほとんどはその尻馬に乗って大合唱しています。そのおかげで日韓双方に悪感情が生まれ、観光客は大激減して、日本経済は観光地だけでなく大打撃を受けています。しかし、日本は悪くない、悪いのは韓国だというのは本当なのでしょうか・・・。
韓国大法院(日本の最高裁に相当します)は、「原告らの損害賠償請求権は、日本政府の韓半島に対する不法な植民支配および侵略戦争の遂行と直結した日本企業の反人道的な不法行為を前提とする強制動員被害者の日本企業に対する慰謝料請求権」であるとしています。
戦時の徴用工の被害実態は、非人道的な処遇でした。これが現代に生きる私たちが認めたくない現実なのです。現在の外国人技能実習生の置かれている処遇とは比べものにならないほど劣悪だったことは間違いありません。
そのうえで、韓国大法院は、日韓請求権協定では強制動員による慰謝料請求権は放棄されていないとしました。これは、実は日本政府も繰り返し認めているところなのです。
つまり、日韓請求権協定では強制動員被害者の問題は解決していない。また、請求権協定が解決の妨げになるものでもない。被害者の人権回復、日本による植民地支配の反省から解決を目ざすべきだ。
著者はこのように述べていますが、まことにもっともな指摘です。
安部首相の頭のなかには、日本は韓国を植民地支配をしたが、それは韓国の近代化に大いに貢献した、むしろ感謝されて当然という考えがあるようです。この論理は、奴隷の所有者が奴隷に向かって毎日、飢えることもなく安心して過ごせるのはオレ様のおかげなんだ、ありがたく思えというのとまったく変わりません。
加害者は自分のしたことをすぐに忘れるし、忘れるのは簡単です。しかし、被害者は被害にあったことを簡単に忘れるものではありません。それは二代、三代と世代が変わっても記憶されるものです。
著者は国際人権法の専門家ですので、大変勉強になりました。
(2019年10月刊。2200円+税)

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