弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2019年12月 5日

挑戦する法

司法


(霧山昴)
著者 島川 勝 、 出版  日本評論社

著者は20年間の弁護士生活のあと、1992年に裁判官となり、10年間を裁判所で過ごしたあと、法科大学院で実務の教員になりました。今は、また弁護士に戻っています。私は著者が裁判官になる前の弁護士のとき、クレサラ問題に取り組むなかで交流がありました。
著者は裁判官になってから、破産部でサラ金破産を担当しました。破産件数が日本最多のころのことです。そのため効率化が図られ、免責審尋は個別面接する余裕がなく、集団面接という方式となっていました。要するに、個別事情は無視して、裁判官が一方的に「説教」して終わらせるものです。
著者は、それだと破産者に破産原因をきちんと認識することがないため、再度の破産も目立ってきたので、「島川教室」を開設した。単に形式的に不許可事由を尋ねるのではなく、利息の計算方法や破産の原因について、きちんと説明するように心がけたのでした。
このころ大阪弁護士会のクレサラ問題を扱う弁護士の多くは、なんでも一律、簡単に免責を得るのが当然で、倫理性は不要だと声高に主張するばかりでした(私は、当時も今も異論を唱えました)ので、それへのささやかな抵抗を試みていたことになります。
著者は裁判を迅速にする試みのなかで、証拠(証人)調べをするのが2割になっていることを問題だと指摘していますが、これにもまったく同感です。争点を明確にしたうえで、証人を法廷で調べるのは原則として必要なことです。
著者が1992年に裁判官に任官したとき、大阪から他に4人(合計5人)だったそうです。このころは弁護士任官に勢いがあり、裁判所も積極的に受け入れようとしていました。今では弁護士任官は年間5人にもみたない状況です。裁判所が消極的なのです。厳しいハードルを勝手にもうけて、せっかくの任官希望者をふるい落とすものですから、希望者自体が激減しています。大変悲しむべき事態です。裁判所改革は、本当にすすんでいません。
著者は大阪の西淀川大気汚染訴訟の原告弁護団事務局長としても活躍していましたし、青法協(青年法律家協会)の会員でもありました。そんな経歴の弁護士が裁判官に就任したというので大変注目されました。期待にたがえず10年間の裁判官生活をまっとうし、このような立派な本を刊行したわけです。そのご苦労に心より敬意を表します。
(2019年11月刊。3800円+税)

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