弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2019年10月21日

進化の法則は北極のサメが知っていた

生物


(霧山昴)
著者 渡辺 佑基 、 出版  河出新書

びっくりするほど面白い本です。登場するのは、サメ、ペンギン、そしてアザラシなどです。
途中で理解困難な計算式が出てきたりもしますが、そんなものは読み飛ばします。生命の神秘が一番心惹かれるところですが、実はそれを探究するために極地へ出かけたりする冒険旅行記がスリル満点で、読ませるのです。
著者にとっての最大の謎は、生命活動がシンプルな物理で説明できるのに、なぜ地球上にこれほど多様な生物が満ちあふれているのか、この二つがなぜ両立できるのか、ということです。さすがに、謎の提起が鋭いですよね・・・。
著者は、ヒマな時間をもてあまさないよう、けん玉1級の技能をもっているとのこと。うらやましい限りです。孫が来たとき、私も昔とった杵づかでエエカッコしようと思って実演してみせたのですが、トホホでした。世の中は、そうはうまくいかないものです・・・。
ニシオンデンザメは、超大型のサメで、体長6メートル、体重1トン。低温に適応しており、水温がゼロ前後という海の中で暮らしている。ニシオンデンザメは、体温が低いだけでなく、超低温環境下で獲物をとらえて、巨大な体を維持している。
ニシオンデンザメの遊泳スピードは、平均して時速800メートル。人間の歩くスピードの6分の1しかない。2日に1回だけ獲物を追いかけるだけ。
ニシオンデンザメのメスは、体長4メートルで性成熟するが、その大きさに育つまで150年もかかる。そして、寿命は、400歳。うひゃあ、声も出ません・・・。
人間にとっての1日は、ニシオンデンザメの1ヶ月半に相当する重みをもっている。ニシオンデンザメの視点から人間をみると、まるで映像を47倍速で再生したみたいに、ちょこまかと動き、あっという間に子どもを産んで、あっという間に死んでいく哀れな存在にうつるだろう。
マグロやホホジロザメなどの中温性魚類は、同じ大きさの変温性魚類に比べて2,4倍も遊泳スピードが速い。体温が10度上がるごとに、代謝量は2~3倍になる。
生物体は、一つの巨大な化学工場である。
温度が上がるほど、分子一つ一つの動きが活発になり、異なる分子同士の出会う確率が増えるため、化学反応は促進される。
体重25キロの小学生と、体重65キロの大人を比較すると、時間の濃度は子どものほうが11.3倍も濃い。大人の薄い時間に換算すると、子どもは1日が31時間、つまり7時間も余計にあるようなものなのだ。
分からないように、物理学をふまえた生物の話の面白さにぐいぐいと引きずりこまれてしまいました。よかったら、どうぞあなたも読んでみてください。
(2019年2月刊。920円+税)

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