弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2019年10月19日

ヒト、犬に会う

人間・犬


(霧山昴)
著者 島 泰三 、 出版  講談社選書メチエ

大分の山中で、猟師が7頭の犬を連れてイノシシ狩りに行くのに著者は同行します。
先導する犬にはGPS発信器をつけ、全頭に発信器を装着しておく。
洋犬は獲物の臭跡を追跡する。しかし、和犬は耳と目も使ってイノシシを点で追う。点で追うことでイノシシを奇襲し、パニックにおとす。著者は道なき山中を平気で踏破できるのです。山中で野生猿を追いかけた経験があるからです。
イヌは1万5000年も前に、他の家畜に5000年より早く家畜化された。なぜか・・・。
イヌ亜目は肉食にこだわらない食性を開発した食肉類。
イヌに近いクマは足裏をかかとまですべて地面につけて歩く蹠行(しょこう)性。これは人間やサルも同じ。これに対してイヌは、趾行(しこう)性で、かかとの部分は地面から遠く離れ、つま先立ちして歩く。これは、長距離を疲れを知らずに走り、歩くことに特化したもの。爪も、ネコのような鋭い突き刺す爪先ではなく、地面を蹴るのにふさわしい頑丈な爪となった。
イヌの長い鼻面も、そこを流れる血液を冷却するのに効率が良く、地上で長距離を走る能力を高めている。
犬は世界をかぐ手段を気体液体と2重にもっている。
犬は塩をほしがることはない。
犬には水の味に適応した味蕾がある。人間にはない。犬は、その敏感な音や臭いの受容能力、さらには瞬間的な動きを解析できる能力によって、人間のごくささいな動きや臭いや音から、伝達されるべき情報を探りあてることができる。こうやって、犬は主人の意図を正確に感じとる。イヌは人間が思う以上に繊細な感覚で人間とコミュニケーションをとろうとしている。人間の側が、それを分かっていない。
犬には妄想はない。
著者の動物そして孫を観察して書きつづられる言葉には、どれも深い含蓄があり、考えさせられます。私の大いに尊敬する素晴らしい動物学者なのですが、東大闘争を扱った『安田講堂』だけは、残念ながら事実に反した失敗作です。あの本だけはぜひ一刻も早く絶版することを願っています。
(2019年7月刊。1750円+税)

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