弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2019年9月19日

徴用工裁判と日韓請求権協定

社会・韓国


(霧山昴)
著者 山本 晴太、川上 詩朗、 殷 勇基ほか 、 出版  現代人文社

いま日韓関係は最悪の状況になっています。安倍政権は全部、韓国が悪いと放言し、日本のマスコミも「大本営発表」をうのみにして韓国バッシングのキャンペーンをひたすら続けています。
でも、本当にそうなんですか・・・。少し頭を冷やして、日本と韓国、戦前の朝鮮半島を日本が植民地支配した実際を考えてみませんか・・・。
先日、山本晴太弁護士(福岡県弁護士会)の講演を聞く機会があり、その折に本書を買い求めました。長いあいだ韓国の徴用工問題について原告代理人として裁判をたたかってきた弁護士ですので、その歴史的また法律的解説はきわめて明快でした。
徴用工というのは、結局、日本政府の方針のもとで日本企業が朝鮮半島から日本へ連行してきた労働力として無理やりはたらかせていた人たちのことです。大牟田市では三池炭鉱だけでなく、三池染料(今の三井化学)などでも働かせていました。私の亡父も労務係長として京城の総督府で話をつけて500人の徴用工を引率してきた一人です。悪いことをしたとは思っていませんでした。
徴用工といっても、法的には、募集と官斡旋(あっせん)、徴用の3段階がある。この3つにどれだけ実質的な違いがあるかというと、実はほとんど同じ。募集と官斡旋は、事実上拒否できない「物理的強制」が多く用いられた。徴用は物理的強制だけでなく、拒否すると刑罰を科せられる法的強制が加えられた。
1965年6月の日韓請求権協定では、日本が韓国に対し、無償3億ドル、有償2億ドルの合計5億ドルの経済支援を行うこととし、両国と国民のあいだでは請求権に関する問題が「完全かつ最終的に解決した」(協定2条)とされている。
日韓会談がなされていたころの1953年10月、日本側首席代表の久保田貫一郎は、「日本は36年間(の植民地支配のなかで)、鉄道を敷き、水田を増やし、ハゲ山を緑の山に変えるなど、多くの利益を韓国人に与えた。日本が進出していなかったら、韓国は中国かロシアに占領され、もっとミゼラブルな状態におかれたことだろう。日本によって植民地支配されたこと、韓国が日本に併合されたことについて、韓国は日本に感謝すべきだ」とテレビの前で放言した。
なるほど、高速道路、新鋭製鉄所の建設、ダム建設など、韓国の高度経済成長に日本の経済支援は貢献しました。とはいっても、そのとき経済支援のお金は実のところ日本企業にリターンしていたのです。そして、韓国はアメリカ軍のベトナム侵略のもとで派兵に踏み切ったので、7年間で10億ドルほどの経済援助(特需)を得ていたし、こちらのほうが金額は大きい。
また、被徴用者に対して、韓国政府は死亡者1人につき30万ウォン、総額37億円を支給した。これは、日本の「賠償金」から支払われたものではない。
外交保護権なるものは、国民が外国から不当な扱いを受け、その被害が相手国の裁判などで救済されないようなとき、最後の手段として被害者の国が相手国に賠償を要求する権利のこと。日本政府は、ながいあいだ国家として有する外交保護権は放棄したが、個人請求権は放棄していないという見解を表明してきた。ところが、2000年ころ突如として個人の権利は消滅していないが、裁判による請求はできなくなったという見解に変わった。そして、それを2007年4月27日の最高裁判決は無批判に受け入れた。いつものことながら、司法による情ない行政追随判決です。
韓国の大法院(日本でいう最高裁にあたります)判決が2018年10月30日に出ましたが、実はこれは2012年5月24日の大法院判決と基本的に同旨なのです。すなわち、植民地支配と直結した不法行為による損害賠償請求権は日韓請求権協定の対象とはなっておらず、個人の損害賠償請求権はあるとしました。まったく無理のない判決です。韓国政府が大法院の判決がおかしいなど言えるはずもありません。
中国の徴用工問題については、最高裁判決のあと、その趣旨も生かし、日本企業がお金を支払って無事に和解で解決しました。日韓の徴用工問題にしても同じような決着の仕方を考えたらよいのです。ところが、安倍首相も菅官房長官も、ひたすら「韓国が悪い」「韓国に全責任がある」かのように言い募って韓国を敵視する世論をあおるばかりで、ほとんどの日本のマスコミがそれをたれ流しています。
判例解説が中心なので、少々よみにくいところもありますが、いまこそ大いに読まれるべき本です。どうしてこうなったのか、日本人は戦前の植民地支配にまで立ち返ってきちんと反省すべきだと思います。
(2019年9月刊。2000円+税)

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