弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2019年9月 4日

弁護士研修ノート

司法


(霧山昴)
著者 原 和良 、 出版  第一法規

初版が出てから、もう6年にもなるそうです。改訂版が出たので早速注文したところ、本屋から届いた翌日に著者からも贈呈本が届きました。
とても実践的な本ですので、若手弁護士に役に立つことは間違いありませんが、私のような「ベテラン」弁護士にとっても知らないこともあり、大変役に立つ内容でした。
著者は佐賀県出身で、今は東京で大活躍中の弁護士(47期)です。
弁護士が相談を受けるとき、「お地蔵さん」になってはいけない。極度に緊張した相談者とは、ときに子どもや孫のこと、仕事の話など、事件に関係のない、自慢話を聴くのは距離感を縮めるうえで役に立つ。また、弁護士自身のことも少し話したらいいことも多い。
相談者の話に共感はしても同化してはいけない。「私も同じ気持ちです」となっては、弁護士ではない。こちらは解決のためのプロフェッショナルだから。弁護士が相談者と一緒になって、浮いたり沈んだりしていたら、相談者は不安を覚えて相談など出来ない。
相談を受けるときは、要件事実を意識しながら言葉のキャッチボールをする。
頭ごなしに、「それは間違い」「あんたが悪い」と叱りつけてしまうのが一番悪い相談態度だ。
相談を受けたとき、分からないことは分からない、調査をしますと答えたほうが良い。誠実な態度をとって依頼を断られたら、これはどうせ先々で依頼者と大きなトラブルになる可能性があった相談だと考え直して、むしろラッキーだと思ったほうが良い。
これには、私も、まったく同感です。
解決策を選ぶのは依頼者であり、弁護士は、本人の選択した人生をお手伝いする、そのガイドしかできない。
私は、これに賛成しつつ、弁護士は、いくつかのプランを示しつつ、私はこのうちこのプラン(方針)を勧めると、までは言うべきだと考えています。もちろん、押しつけにならないような注意(配慮)は必要です。いくつかのプランを併列的にならべて、「はい、このなかから勝手に選んでください」というのでは、あまりに不親切だと考えています。
そして、受任率が低い若手弁護士には、笑顔を見せて相談者を安心させる、大きな声で自信たっぷりに言うといった役者を演じることも弁護士には必要なんだと、そうアドバイスしています。
弁護士にとって、準備書面とは、裁判官に向けたラブレターだ。読んでもらわないといけない。そして、読んでこちらに好意をもってもらわないといけない。そのためには、魅力的かつ説得的な法律論を分かりやすく展開しなければいけない。大切なこと、注目してほしいことは繰り返し述べて裁判官の印象に残るようにする。
論理的緻密さと日本語としての分かりやすさは、不可欠の要素だ。
最終準備書面は、尋問の終わった当日に、少なくとも要点のメモくらいは残しておく。証言調書ができあがってからでは遅すぎるし、忘れてしまって時間の浪費だ。
著者は依頼者の期待を裏切ることをすすめています。ええっ、なんという、とんでもないことを著者は言っている・・・、と思ったら、まっとうなことを著者は言っているのでした。つまり、依頼者(お客)の固定観念を裏切ることをすすめているのです。たとえば、依頼者の自宅を訪問するとか、事件が終了して3ヶ月後に電話を入れて、様子を聞いてみるとか、気楽に出張相談をしてみるとか・・・。なーるほど、ですね。
著者は大学生と交流会をしたとき、今まで一番つらかった事件は何ですかと問われて、「忘れました」と答えたそうです。素晴らしい答えです。そういえば、私も、いやなことは「忘れました」という感じで70歳になるまで生きてきましたし、生きています。
引き受けたくない人は、どんな人ですかという問いに対しては、「できるだけ安く依頼しようと考えている人」と著者は回答しました。まったく同感です。弁護士は典型的な頭脳労働ですから、あまりに値切ってほしくないと従前より考えてきましたし、実行しています。
二つのアンバランスに陥らないようにする。自分のやりたいこと、社会貢献活動にばかり時間と労力をとられて、日常業務に支障をきたしてはまずい。逆に、日常業務に迫られて、人権活動などがおろそかになってもいけない。
私にとっても、永遠の課題です。
実務・雑務を一人でかかえこまない。ストレスフルな弁護士生活を乗り切るには、仕事のことをまったく忘れることのできる自分の時間と趣味をもち、自分自身が煮詰まらないように自己管理することが大切。
いやはや、とてもとても実践的な本なので、一気に読了しました。弁護士としてのスキルアップを考えている人に超おすすめの本です。小型本なので、カバンのなかに入れてスキ間時間に読んでみてください。
(2019年8月刊。1800円+税)

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