弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2019年8月29日

ふたつの日本

社会


(霧山昴)
著者 望月 優大 、 出版  講談社現代新書

在留外国人は、昭和の終わりの1988年に94万人だったのが、平成の終わりの2018年には3倍ほどの264万人になった。ところが、多くの日本人は今なお外国人や移民の存在を「新しい」もの、「異なる」ものとして捉えている。つまり、大きく変化した現実に対して、多くの日本人の感覚は追いついていない。
日本では長らく、「移民」という言葉自体がタブー視されてきた。日本政府は、深刻な人手不足に悩む経済界からの要請に応じて、外国人労働者の受け入れをさらに拡大しようとしている。しかし、その政策について、今なお、かたくなに「移民政策ではない」と言い張っている。
日本にいる更新不要の「永住権」をもつ外国人は100万人をこえている。韓国・朝鮮籍の人は全体の2割未満でしかない。
日本には、109万人の「永住移民」がいて、155万人の「非永住移民」がいる。そして、少なくとも131万人の「移民背景の国民」がいる。その合計は400万人だ。このほか、7万人の超過滞在者(非正規移民)がいる。
今や、日本は、世界第7位の移民大国になっている。アメリカ、ドイツ、イギリス、イタリア、スペイン、フランスに次ぐ。それでも、日本は、他国と比べて外国人が総人口に占める割合が1.7%と小さいため、目立たない。
日本政府は、永住権もつ人を増やさずに、出稼ぎ労働者を増やしたいと考えている。これをローテーション政策という。日本にいる在留外国人の6割は労働者だ。製造業の割合が低下し、コンビニなどの小売業や居酒屋などの飲食業で多く働いている。
外国人を「モノ」ではなく、「人」として扱うのには相応のコストがかかる。医療や年金などの社会保障システムの対象とするのかどうか・・・。
フィリピンからの女性は相対的に高齢化が進んでいて、もっとも多いのは40代後半だ。
技能実習生は、2011年に14万人だったのが、2018年には倍の28万人をこえている。来日前につくった大きな借金のせいで、多くの実習生は、「進むも地獄、退くも地獄」の状況に追い込まれている。しかも、多くの技能実習生が頼れる人・場所がなく、孤立している。
日本語指導が必要な児童生徒は4万4千人。そのうち1万人近くは日本国籍。日本国籍をもつ「日本人」の子どもにも日本語指導が必要な者がいて、その数はどんどん増えている。
日本における外国人、移民労働者のおかれている現実と、それへの対応が緊急に必要だということを痛感されられた新書でした。
(2019年3月刊。840円+税)

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