弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2019年8月28日

北朝鮮外交秘録

北朝鮮


(霧山昴)
著者 太 永浩 、 出版  文芸春秋

イギリスの北朝鮮大使館の公使だった著者は、妻と2人の子どもとともに北朝鮮を脱出することができました。大変な決断だったと思います。
いわば北朝鮮のエリート層の一員だった著者は、北朝鮮は封建社会どころか、奴隷社会にまで退行したと厳しく糾弾しています。
北朝鮮には憲法より上位の法がある。金日成・金正日・金正恩という三代の「お言葉」、「堂の唯一領導体系確立の10大原則」、「朝鮮労働党規約」という首領と党の政策だ。
北朝鮮は、国全体が金正恩一族のためだけに存在する奴隷制国家だ。
金正恩が一番恐れているのは真理の力だ。
北朝鮮の平均寿命は女性が73.3歳、男性は66.3歳だ。韓国と比べると、それぞれ11.3歳と11.7歳も短い。
この本のタイトルにもなっている「3階書記室」というのは、書記室が3階建ての建物を使っていることから、こう呼ばれている。金正日の執務室のある建物が3階建てだった。3階書記室とは、大統領秘書室みたいな存在だ。党中央庁舎は、中央党の幹部も近づけない完全な立入禁止エリアだ。
北朝鮮は、金一族という「神」と、いくつもの下部組織とのあいだの縦のつながりだけが存在する社会だ。横のつながりは、ほとんどない。省庁間の協議というのはない。
外務省は外務省、党国際部は党国際部で、それぞれ金正日に報告する。
党中央組織指導部がどんなに強大な権力をもっていても、対外政策については手をだせない。党組織の生活を管理する組織指導部と宣伝煽動部は、北朝鮮の体制が形づくられた日から今日まで、北朝鮮社会を動かす二大軸だ。
北朝鮮の権力に序列には意味がない。北朝鮮では、当該機関や傘下機関の人事権、表彰権、処罰権をもっているかどうかで権力が決まる。
金正恩が恐怖政治に頼りはじめたのは、コンプレックスのせいだ。金正恩は、自分の生年と学歴、生母などを公式に発表できないでいる。生母の高英姫は元は在日朝鮮人で、万寿台芸術団の舞踏家として活動していた。そのうえ、高英姫の父親は日本軍の協力者として働いていたと韓国では報道されている。
金正恩は、自分の家族の出自や経歴が北朝鮮の体制の不安要素であることをよく理解している。
北朝鮮の権力機構にいる人間にとって、一番重要なことは、金正日や金正恩が突発的に下す指示を無条件に執行しないということだ。厳密に計算したあと、たとえ遂行する場合でも、金正日に文書を作成して裁可を受けておく。こういう問題が起きるかもしれない、別の対応もありうる・・・と。無条件に執行すると、結果が良くなかったときには責任をとらされる。党除名と失職、下手すると処刑(銃殺刑)だ。
北朝鮮の政治の意思決定過程がよく理解できる本です。私は、朝鮮半島の平和的統一を心から願っています。
(2019年6月刊。2200円+税)

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