弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2019年8月16日

東京は遠かった、改めて読む松本清張

社会


(霧山昴)
著者 川本 三郎 、 出版  毎日新聞出版

松本清張の本は、それなりに読みました。読み終えたとき、心の底に黒々としたオリのようなものがたまっているのを感じる本が多かったという印象です。
小倉にいた松本清張は東京(中央)の文壇から認められたいという思いを強くもっていました。東京と地方の格差の問題が松本清張の本に通底しています。
『Dの複合』を読むときには、かたわらに日本地図を置き、しばしばそれを開いて、地名、場所を確認しながら読むことになる。それは主人公たちと一緒に旅することでもある。旅といっても、にぎやかな観光地を訪ねる旅ではなく、旅先は、一般に広くは知られていない、地方の小さな町や村である。
松本清張にとって、東京は遠かった。東京は、いつかそこで作家として成功する約束の地。晴れ舞台であり、同時に地方在住者からみて、強者の威圧的な中央だった。
松本清張は、東京をつねに地方からの視線で描く。弱者が強者を見る目で東京をとらえる。中央の権威、権力によって低く見られている地方の悲しみ、憎しみ、怒り、そして他方での憧れといった感情が複雑に交差しあう。
東京(中央)に出たい。東京の人間に認められたい。それによって地元の人間たちを見返してやりたい。松本清張の作品には、しばしば東京への強い思いをもった人間が登場する。ときに、その思いは、歪んで異様なものになることもある。
男の趣味がカメラと旅行。写真帖を見せてもらうと、東尋坊、永平寺、下呂、蒲郡、城崎、琵琶湖、奈良、串本など・・・、名勝地ばかり。普通、孤独好きで一人旅する人間は、こんな観光地には行かない。これらの旅は、女が連れ添っていたに違いない・・・。なるほど、ですね。
松本清張は、酒をたしまなかった。それでも、文壇バーには通っていたようです。作家仲間との交際は続けていたのでした。
松本清張には、「追いつめられた作家もの」と呼びたい作品がいくつかある。原稿が書けなくなった作家が盗作する。代作を頼む。かつては人気のあった作家が零落して殺人を犯す・・・。
松本清張にしても、
「アイデアが浮かばない」
「書けない」
などの悩みは決して他人事ではなかっただろう。
松本清張は古本屋をよく利用した。歴史小説を書く人間として当然のこと・・・。
松本清張の本をもう一度読んでみたいと思ったことでした。
(2019年3月刊。1800円+税)

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