弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2019年7月27日

「若き医師たちのベトナム戦争とその後」

ベトナム

(霧山昴)
著者 黒田 学 、 出版  クリエイツかもがわ

私は大学生のころ、「アメリカのベトナム侵略戦争に反対!」と何度も叫んだものです。それは学内だけでなく、東京・銀座で通り一面を占拠してすすむ夜のフランスデモのときにも、でした。ですから、私の書庫をベトナム戦争に関する本が200冊以上、今も4段を埋めています。
そのなかでも超おすすめの本は『トゥイーの日記』(経済界、2008年)です。
ハノイ医科大学を卒業して女性医師として志願して従軍し、1970年に南ベトナムで戦死したダン・トゥイー・チャムの日記を本にしたものです。戦死した彼女の遺体のそばから偶然に拾われ、アメリカに渡って英語に翻訳されたという本です。思い出すだけでも泣けてくるほどの率直な若き女医の日誌です。
この本には、トゥイーと同級生のチュン医師の回想記も紹介されています。
この当時の医学生たちは、こぞって戦地への赴任を希望し、その多くがトゥイーのように戦死したのでした。そんな人々が今のベトナムの繁栄を支えているのですよね・・・。
ベトナム戦争の後遺症であるベトちゃんドクちゃんという結合双生児分離手術に至る話も紹介されています。この分離手術は無事に成功し、ベトちゃんは分離手術後、植物状態のまま20年で亡くなったものの、ドクちゃん、38歳は結婚して2人の子ども(名前は富士と桜)がいます。日本もこの分離手術には深く関わっていて、手術の成功は、ベトナムと日本の保健医療分野の前進の成果だと評価されているのです。なにしろ、手術は15時間以上も続いたといいます。そして、テレビで生中継されたのでした。
『トゥイーの日記』を読んでいない人は、ぜひ手にとって読んでみてください。今を生きる勇気がモリモリ湧いてくる本ですよ。
(2019年6月刊。1500円+税)

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