弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2019年7月23日

消費者教育学の地平

社会


(霧山昴)
著者 西村 隆男ほか 、 出版  慶應義塾大学出版会

これまで長年にわたって消費者教育の研究や実践にかかわってきた著者の到達点を集成した本です。著者は高校教育の現場に15年いたあと、大学教育の現場で25年間つとめています。私も監事として関わっている熊本の「お金の学校」にも、著者は創立以来、深く関与しています。
消費者教育推進法が議員立法として提案され、2012年8月に成立し、12月から施行されていますが、著者はこの立法過程にも深く関わりました。
この推進法では、消費者教育の推進を国の責任によって行うと明示されています。地方の消費者教育、消費者センターは、予算、人員ともに削減されてきたという現実がありますが、国はもっと予算措置を講じるべきです。有害無益なイージス・アショアやF35につかうお金の、ほんの一部をこちらにまわせばいいのです。
ところが、現実には、例の「なんでも自己責任論」という風潮が強まるなかで、消費者責任論、買い手注意論が今もってはばをきかしています。本当に残念です。
消費者教育は、もちろん子どもを対象とする学校教育だけでなく、社会人への生涯教育です。それにしても、インターネットの発達のなかで子どもたちは、いかにも保護されていない存在になっています。
子どもは不完全な判断能力をもつ消費弱者であるにもかかわらず、保護されていない存在となっている。子どもをターゲットとして発達した音楽、ファッション、ゲーム、漫画、アニメに関する情報はインターネットによって瞬時に提供されている。
子どもは、自らの生活を主体的に運営する能力を身につける前に、経済活動に参加する消費者となる。生きるための消費よりも先に、娯楽としての消費に直面する。その傾向をインターネットが加速させた。
金額によって勝敗が決まる、結果や見た目がすぐに反映され、相手に伝わるサービスとの接触が、お金を過剰に重視する拝金主義的な価値観の形成につながっているのではないか・・・。拝金主義的で、自分自身の生活や意思決定をかえりみる余裕のない子どもたちに消費者として現代のサービスにいかに関わるのかを考えさせる機会を与える必要がある。
クレサラ多重債務者に長らく関わってきた者として、「家計管理支援論」(石橋愛架・鹿児島大学准教授)に注目しました。最近、自己破産申立がじんわり増加傾向にあります。かつてのようなサラ金会社の過剰貸し付けは激減していますが、その穴を埋めるように銀行が貸し付けをすすめていますし、生活基盤がいかにも危ない人々が増えるなか、自らの家計状況や感情をコントロールできない人々が増え、結局高リスク、高コストの借入れに頼るというパターンだと分析されています。大いに説得力のある分析だと思いました。
350頁もの貴重な労作です。著者より贈呈されましたので、私の理解できた限りで紹介させていただきました。少々高価な本ではありますので、全国の図書館にせめて一冊は備えてほしい本だと思います。
(2017年3月刊。4500円+税)

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