弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2019年7月11日

刑事弁護人

司法

(霧山昴)
著者 亀石 倫子・新田 匡央 、 出版  講談社現代新書

GPSは憲法の保障する重要な法益を侵害するものであるから強制捜査である。
任意捜査ではないので、裁判所の令状がなければ許されない。そのため、GPS捜査をしたいのなら、憲法や刑事訴訟法に適合する立法措置が講じられることが望ましい。
画期的な最高裁判決でした。2017年3月15日のことです。その主任弁護人だった亀石倫子(みちこ)弁護士とライターの共作の本です。私は亀石弁護士の講演も聞いたことがありますし、そのレポートも読んでいましたので、この本に書かれていることの多くは知っていましたが、何度よんでも、すばらしい取り組みです。心から拍手を送ります。
著者以外の弁護団のメンバーのキャラクターと能力描写もまた、見事なものです。若手弁護士の英知を結集すると、こんなにも素晴らしいことができるのかと驚嘆します。
この本を読んで初めて知ったのは、先輩弁護士にアドバイスを求め、それを生かしていることです。その一人が刑事弁護であまりにも有名な後藤貞人弁護士です。後藤弁護士も、最高裁で5回ほど弁論したことがあるとはいうものの、大法廷で弁論したことはないといいます。
私も、もちろんありません。一般民事裁判に関して、小法廷で2回だけ口頭弁論しました。それなのに、著者たちは、大法廷で弁論したのですから、それだけでも大変な偉業です。後藤弁護士は「一生に一度の大舞台なんだから、楽しんで」と励ましました。しかし、それだけではありません。
後藤弁護士は「ピチョッとつけたらアカンやろ」と一言いったのでした。この言葉を受けて、弁護団は考えました。GPSを車につけるというのは、警察官が車に張りついているのと同じではないか。GPS捜査とは、警察官による私生活への監視を意味する・・・。
すごいですね。先輩弁護士の一言を見事に理論化したのです。
もう一人は、私もよく知っている園尾隆司弁護士(最高裁元総務局長)です。園尾弁護士のほうが興味をもって大阪の著者たちと面談することになったそうです。
園尾弁護士は、次のようにアドバイスしました。これまた大切なことです。
「結論はもう決まっている。弁論はセレモニーでしかない。だから、開き直って、楽しく、自由にやること」
「言いたいことは三つにしぼる」
「大阪の若手弁護士たちが、何を言うのか、最高裁の裁判官たちはワクワクして待っているので、ぜひ楽しませてやってほしい。そのためには、自分たちの言葉で語ること」
「大切なのは、どう感情を共有するか、だ。ワクワクしながら、楽しんでやれば、裁判官も何かが伝わるはず・・・」
さすがのアドバイスですね。
弁護団は発言の原稿をつくり、猛練習したのですが、これまた、すごいのです。
15人の最高裁の裁判官の顔写真を拡大して部屋の壁に貼り、写真に向かって話す練習を繰り返しました。そして、晴れ舞台のためにスーツを新調し、着慣れするように1週間前から着ました。鏡の前に立って、話すときの姿勢まで入念にチェック。当日弁論しない残る弁護団のメンバーが弁論の口調が速すぎる、声が低い、など、批判して是正していきます。
園尾弁護士は、裁判官の表情について、「スフィンクスのように無表情である訓練をしているので、どんなことにも動揺しないように」とアドバイスしました。まさしく的確なアドバイスです。
弁護団の組み方、弁護団内部の仕事の分担、議論のすすめ方、相互点検など、本当に工夫されています。見習いたいものです。
そして、GPS捜査の実際を実地に体験しているのもすごいです。
刑事弁護のすすめ方について大いに学べる教科書だと思いました。
ご一読を強くおすすめします。
(2019年6月刊。920円+税)

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