弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2019年6月27日

マルコムX(上)

アメリカ

(霧山昴)
著者 マニング・マラブル 、 出版  白水社

マルコムXが講演会場において衆人環視下で暗殺されたのは1965年(昭和40年)2月21日のこと。ということは、私がまだ高校1年生だったときのことになります。当時の私はマルコムXなんて知りませんでしたから、ケネディ大統領暗殺、こちらは私が中学生のときです。このときは、すごくショックで、いったい世界はこれからどうなるんだろうか、また戦争が始まってしまうのだろうかという暗い気持ちになったことを今でも覚えています。
マルコムXの暗殺は、ケネディ大統領やマーティン・ルーサー・キング博士の暗殺と同じ程度の衝撃を多くのアメリカ人に与えた。
マルコムXは、現代ゲットーの産物だった。マルコムXは、都市部の黒人のあいだに強い支持基盤を築いていた。都市部の黒人は、制度的な人種差別をなくすには受動的な抵抗では不十分であることを理解していたからだ。
マルコムXは、いくつもの名前をつかった。マルコム・リトル、ホーム・ボーイ、ジャック・カールトン、デトロイト・レッド、ビッグ・レッド、サタン、マラチ・シャパーズ、マリク・シャパーズ、エル・ハジ、マリク・エル・シャパーズ。どの一つの人格もマルコムを完全にとらえるものではなかった。
黒人アメリカ人にとって、マルコムXの魅力はどこにあるのか・・・。
マルコムXが真に唯一無二の存在だったのは、自分をアフリカ系アメリカ人の民族文化の中心に位置する二つの人物像、つまりハスラーであり、ペテン師、そして説教者であり牧師であるという像を同時に体現する者として自分を提示したことにある。
マルコムXは、世界を旅して、白人への非難と不寛容が正統派イスラムとは相容れないことを知った。そして、マルコムXは、真のイスラムの普遍主義と、人種を問わず、誰でもアラーの恵を見いだすことができるという考えをとり入れた。
FBIもニューヨーク市警察も、どちらもマルコムXの暗殺計画を知っていた。
マルコムXの語りには明快さ、ユーモア、そして切迫感があり、黒人の聴衆をわかせた。
子どものころのマルコムXは運動が苦手だった。踊り(ダンス)も下手だった。しかし、話がうまく聡明で、生まれつきのリーダーだった。
少年時代のマルコムXは窃盗・詐欺の常習犯だった。そして、刑務所に入って、マルコムXは、勉強をはじめた。小物の犯罪者で詐欺師だったマルコムXは、刑務所のなかで政治的知識人となり、ブラック・ムスリムに変身した。
マルコムXの実像に迫った本として興味深く読みすすめました。上巻だけで380頁もある部厚い本です。圧倒されながらも、ぐいぐいと本の世界、マルコムの生きていた世界の深奥をかい間見た思いがしました。
(2019年2月刊。4800円+税)

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