弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2019年6月26日

団地と移民

社会

(霧山昴)
著者 安田 浩一 、 出版  角川書店

団地は日本の象徴です。私の身近な団地も高齢化がすすんでいます。幸いアメリカのようなスラム街にはなっていませんが、エレベーターがなくて、ひきこもり、またゴミ部屋になっていたり、孤独死していて何週間もたって発見されるというのを聞きます。
この本では、団地に外国人が集中して居住している状況がレポートされています。なるほど、と思いました。
千葉県松戸市にある常盤平(ときわだいら)団地には5000世帯が住む。住民の半数が65歳以上の高齢者。単身高齢者が1000人。
いま団地で大きな問題となっているのが「孤独死」。2016年には、10人が自室で亡くなり、死後しばらくして「発見」された。2001年春には、69歳の男性の白骨死体が見つかった。死後3年が経過していた、これには驚きます・・・。
団地は、いまや限界集落にひとしい。
ええっ、限界集落って、交通の途絶した農山村のことかと思っていると、大都会でも起きているんですね・・・。
団地では、孤独死が出ると、壁紙も床もすべて外し、むき出しのコンクリート状態にしてから、内装工事をやり直す。というのは、いくら清掃しても床や壁から死者のニオイが消えることはないから・・・。
埼玉県川口市にある芝園(しばぞの)団地が全2500世帯。半数が外国人住民で、その大半がニューカマーの中国人。
広島市の基町(もとまち)高層アパート(最高20階建)は、戸数3000戸、9000人が暮らす大規模集合住宅。隣接する県営の中層アパート1500戸とあわせて基町団地とも総称される。半数が高齢者、残り半分が外国人。基町アパートの高齢化率は46%。外国籍住民は20%。残留孤児のような中国人が多い。日本語教室が取り組まれている。
愛知県豊田氏の保見(ほみ)団地は日系ブラジル人が多い。1985年、日本にいるブラジル人は1900人。1990年に5万5000人となり、今や20万人。保見団地の全住民8000人の半分がブラジル人など日系南米人。まさに、「小さなブラジル」だ。1999年、保見団地抗争が起きた。右翼と暴走族が「ブラジル人の一掃」をとなえ、ブラジル人グループも全面対決を覚悟した。幸い、機動隊の出動によって、大がかりな衝突は未然に防止できた。
日本社会は移民国家化を避けることができない。いや、すでに日本は事実上の移民国家だ。外国籍住民の人口は、すでに250万人。これは名古屋市の人口を上まわりもはや京都府全体の人口に近い。たそがれていた団地にとって、外国籍住民は救世主となる可能性がある。そして、団地でニューカマーの外国人が自治会役員になるケースもふえている。団地は多文化共生の最前線。移民国家に向けた壮大な社会実験が進行中なのである。
なるほど、現実をしっかり受けとめ、視点を変える必要があると痛感させられました。
(2019年3月刊。1600円+税)

  • URL

カテゴリー

Backnumber

最近のエントリー