弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2019年6月12日

暴君

社会

(霧山昴)
著者 牧 久 、 出版  小学館

新左翼・松崎明に支配されたJR秘史。これがサブタイトルです。ようするに革マル派の最高幹部でありながら、東京中心のJR東日本の「影の社長」とまで言われた松崎明の実像をあばいた本です。
公共交通機関であることをすっかり忘れ去ったJR九州に対して、私は心の底から怒っています。今や、JR九州は金もうけ本位、それだけです。もうからないローカル鉄道はどんどん切り捨て、新幹線のホームには駅員を配置しない。しばしば列車ダイヤが乱れるのは、維持・管理の手抜きから・・・。要するに乗客不在でもうからないことは一切やらない、安全軽視の民間運送会社になり下がってしまっています。
そして、社長は、いかに金もうけができたか、その自慢話を得意気に語る本を相次いで出版しています。安全第一・乗客第一の交通機関である誇りを忘れてしまったサイテーの経営者としか言いようがありません。本当に残念です。
今では大事故が起きないのが不思議なほどです。
同じJR北海道では、歴代社長が2人も自殺してしまったとのこと。よほど責任感が強すぎたのでしょう。JR九州には、ぜひ一刻も早く目を覚ましてほしいものです。
松崎明は、「国鉄改革三人組」、井手正敬、松田昌士、葛西敬之の三人を次のようにバッサリ切り捨てた。
この三人のなかに立派な人はいない。目的のために常に手段を選び、人間が小心、ずるがしこい。この「三人組」にとって、国鉄改革とは、まさしく立身出身の手段そのものだった。したがって、その後の「悪政」は必然の道だった。
まあ、歴史的事実としては、そんな「三人組」と大同小異なのが松崎明だったということなのでしょう・・・。
松崎明は、2010年12月9日、74歳で病死した。
松崎明は2000年4月、ハワイのコンドミニアム(マンション)を3300万円で購入した。寝室3つ、浴室2つの豪華マンションである。その1年前にも、同じハワイに庭付き一戸建て住宅2630万円を購入している。日本では、埼玉県小川町の自宅マンションのほか、東京・品川区の高級マンションをもっている。さらに、群馬県、沖縄、宮古島の保養施設3ヶ所も実質的に松崎が所有していた。
2005年12月、警視庁公安部は松崎の自宅などを業務上横領の疑いで家宅捜索した。4日間、80時間ほどをかけ、徹底したものだった。そして、2007年11月、警視庁は業務上横領で松崎明を書類送検した。ところが、同年12月末、嫌疑不十分で松崎明は起訴されなかった。
JR東日本の社長となった松田は、松崎明が革マル派を抜けていないことを本人に確認したうえで、利用した。共産党や社会主義協会派とたたかわせるためには、革マル派を使うほかにないと考えたのだ。
JR東日本ではストをやらせない、今後もやらせない。少々高いアメを松崎明たちにしゃぶらせても、結局は、その方が安上がり。こういう考えだったのです。
驚きました。JR東日本の松田社長は松崎明が革マル派の最高幹部だということを本人の告白によって知っていたのです。えええっ・・・。
元警察庁警備局長(キャリア組)の柴田善憲は、松崎明に完全に取り込まれた。JR東日本の本社、各支社には20人以上の元警察庁幹部が定年後に、「総務部調査役」として入っていた。その仲介役が柴田善憲だった。
10年間ほど、警察庁警備局は、「危ないのは中核派だ。中核派を重点的に調べろ」という指示を出した。それで、革マル派は警戒対象とならず10年間ほど、空白の期間があった。
ところが、革マル派のもつ埼玉県のアジトでは公安警察無線を傍受していた。
革マル派なんて、とっくに消滅してしまっているんじゃないの・・・。そう思っていると、おっとドスコイ、今も細々ながら生きのびているということです。
500頁近い大変な力作であり、恐るべき本です。新幹線をふくめて、主要なJRに今なお革マル派が巣喰っているだなんて、信じられませんよね・・・。
(2019年4月刊。2000円+税)

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