弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2019年6月 6日

アマゾンの倉庫で絶望し、ウーバーの車で発狂した

イギリス

(霧山昴)
著者 ジェームズ・ブラッドワース 、 出版  光文社

イギリスでは、階級差が日本と違って、はっきりと目に見えるようです。
そして、サッチャーが炭鉱労働者の戦闘的な組合を壊滅させたことにより、労働者は頼るべき拠りどころをなくしてしまったようです。それは、日本でスト権ストの敗北後に労働組合の力が衰退していったのと同じだと思えます。
著者は実際にアマゾンの倉庫で働き、ウーバーのタクシー運転手、そしてコールセンターでも働いていて、その体験レポートでもあります。
イギリスで労働者になるということは、軽蔑されるか、あるいは生きることがぎりぎり許されるレベルの人間になるということ。現代のイギリスで貧困に陥るのは、いとも簡単であり、どんな選択をしたとしも誰にでも起こりえることだ。
アマゾンの倉庫は4つのフロアに分れ、従業員も4つのグループに分かれている。運ばれてきた商品を受けとって確認し、開封するグループ、商品を棚に補充するグループ、注文された商品をピックアップするグループ、商品を箱に詰めて発送するグループ。
アマゾンは、イギリス国内だけで8000人を雇用する巨大企業だ。一人の従業員は、国際物流のための大きな機械の小さな歯車でしかない。従業員の7割は1日に16キロ以上歩いている。
アマゾンの倉庫での仕事は、肉体的にきついだけでなく、精神的にもうんざりするものだ。この仕事には、感情のための緩和剤が必要だ。そのため脂っこいポテトチップスを買う。
労働者は、ジャンクフードと油と砂糖をたらふく食べる。単純労働による身体感情的な消耗を何かで補う必要に迫られる。それが、タバコ、酒、ジャンクフードなのだ。これが残された数少ない喜びになっている。そのため、肥満率が圧倒的に高い。
現在、イギリス全土で100万人以上がコールセンターで働いている。ウェールズには、200ヶ所以上のコールセンターがあり、3万人の雇用そして6億5千万ポンドの経済効果を生み出ている。
しかし、コールセンターの仕事は、退屈だ。そして雇用は常に不安定だ。コールセンターでは、従業員の監視システムがすすんでいて、従業員のすべての行動が監視・追跡・記録されている。
ロンドンの民間タクシーの運転手は過去7年間で倍増し、11万7千人となった。ウーバーを利用する乗客は2012年に5千人だったのが、今や170万人に増えた。ウーバーの運転手は、ピーという通知音が鳴ったら、15秒以内に仕事を受けるか、ほかのドライバーに任せるかを判断しなければならない。運転手が3回連続で乗車リクエストを拒否すると、外されてしまう。
運転手は、受けた仕事の件数、種類、キャンセルの有無が厳重に監視されている。
利用する料金が安いことから、乗客は運転手に対して敬意を払わない。
サッチャーが炭鉱夫の労働組合を攻撃したとき、多くの人は自分に関係ないことと、屁とも思わなかった。けれども、結局、この国で働くすべての人にその影響が及んだ。そして、その影響は今日までずっと続いている。
先日、イギリス労働党のコービン党首への圧倒的支持の高まりを分析した本を読みましたが、この本と通底するところがありました。要するに、希望を失ってはいけないということです。
(2019年4月刊。1800円+税)

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