弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2019年5月23日

よみがえる戦時体制

日本史(戦前)


(霧山昴)
著者 荻野 富士夫 、 出版  集英社新書

「一強」のアベ首相のもとで、今や日本は「戦前」の時代に突入しつつあるのではないか・・・。そんな思いに駆られることがあります。
「令和」フィーバーは異常です。「令和」おじさんの株が上がって、ポスト・アベにスガ官房長官が躍進しているなんて、悪い冗談にもほどがあります。
本人は連休中でゴルフに出かけ、東京の集会にはビデオレターで登場し、「2020年には改正憲法を施行する」なんて、号令をかけました。とんでもない首相です。憲法を誰より率先して守る義務のある首相が国民に向かって改憲を呼びかける、そんなことは決して許されるべきことではありません。
昭和天皇は早くから思想問題に関心を抱き、とくに日本開戦時や配線前後の治安状況についての情報収集に熱心だった。組閣時には、警保局長などの内務省人事にまで注文をつけることがあった。
昭和天皇は1936年、共産党を消滅させた功労者として、内務、司法官僚を叙勲した。
戦前の特高警察官は最大時、総数で1万人、警察前全体の1割に達した。
治安維持法の「目的遂行」罪は、かつてのように「結局のところ」とか「窮極において」といった飛躍の論理を用いる必要をなくした。
横浜事件のとき、特高刑事たちは、こう言ってせせら笑った。
「きみたちの考えは、まったく甘い。今はもう何もやれないことは、こちらが百も承知している。しかし、将来、万一のときに、お前たちが何かをやるに決まっているような精神構造そのものを問題にしているのだ」
うひゃあ、これって恐ろしいですよね・・・。これでは、どうしようもありませんね、内心の自由なんて、まるでありません。
1941年12月、真珠湾攻撃とそれに続く連勝に、国民の「戦意」は一挙に沸騰し、99%以上の国民が「我々の戦争」ととらえて、戦争を支持し、協力する側に位置した。ところが、1944年になると、厭戦・悲観気分が広がり、7月のサイパン島失陥により、明らかに「戦意」は低下しはじめた。このような戦いぶりで勝てるだろうかという疑念が生じ、戦争指導に対する政府や軍の拙劣さへの批判が表面化してきた。
敗戦後も、昭和天皇の治安感覚は変らなかった。ストライキの頻発や共産党の進出を憂慮した。
「共産党に対しては何とか手を打つことが必要だと思うが・・・」(1948年3月)
アベ政権の天皇を政治的に利用する姿勢は露骨です。連休中に実施された一般参賀にしても、秋の予定だったのを宮中の意向を排して5月の連休中に早めにさせ、政権の人気とりに結びつけたのでした。ひどいものです。
いま、アベ首相に対してはっきりモノを言わないと、まさしく「戦前」に突入しかねない状況です。とてもタイムリーな新書の内容になっています。
(2018年6月刊。860円+税)

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