弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2019年5月19日

シベリア抑留者への鎮魂歌

日本史(戦前)

(霧山昴)
著者 富田 武 、 出版  人文書院

日本軍は第一次世界大戦後のシベリア出兵(1919年)で歩兵1個大隊が全滅(戦死者280人)したことの報復として、イワノフカ村をパルチザンの巣窟(そうくつ)とみなして掃討作戦を展開した。日本軍は村人257人を虐殺したが、うち女性が10人、子どもも4人いた。
そのため、ロシア人は日本人を「人間を食べる人種」だと怖がった。
シベリアに抑留された元日本兵は、極寒のなかでの重労働を余儀なくされた。
ある収容所には、元日本兵が1000人いたが、その6分の1が飢え、寒さ、重労働、病気のために亡くなった(6分の1というと、170人前後の死者が出たということです)。
飢えは、捕虜の人間性を損ねた。寝床で隣の者が下痢をすると、もっと続けばよいと願った。その食糧を自分が食べられるからだ。死者の遺体は身ぐるみ剥がして埋めた。衣類をパンに代えるためだ。入院患者が危篤だと知ると、周りの者が早々に「形見分け」した。品物をパンに代えるためで、危篤から脱した者が帰ってきても、持ち物は本人に戻らなかった。
関東軍情報部(特務機関)のロシア語教官だった女性(中村百合子。1923年生まれ)は、アメリカのCICのエージェントとして北朝鮮で活動し、スパイだと発覚して1956年までソ連の政治犯収容所に8年も拘留されていた。この中村百合子は、CICのエージェントになる条件として、日本にいる母親への毎月5000円の送金をCICに約束させた。
シベリア抑留の実態に迫る貴重な学術書です。
(2018年10月刊。1600円+税)

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