弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2019年5月15日
「核の時代」と憲法9条
司法
(霧山昴)
著者 大久保 賢一 、 出版 日本評論社
私たちは現在、核兵器や原発という制御不能なものとの共存を強いられている。
核エネルギーは「神の火」ではなく、「地獄の業火」だ。私たちは核地雷原の上で生息しているようなもの。にもかかわらず、核兵器や原発を脅しの道具や金もうけの手段としている連中がのさばっている。
つい先日も、日本経団連会長(原発をイギリスに輸出しようとして失敗した日立出身です)が、日本には原発が必要だと堂々と恥ずかし気もなく高言していました。恐ろしい現実です。3.11のあと原発反対の声は広く深くなっているとはいえ、まだまだ原発停止したらマンションのエレベーターが停まってしまうんじゃないかしら・・・、なんていう日本人が決して少なくないのも現実です。
著者は、私と同じ団塊世代。埼玉・所沢で、この40年間、「くらしに憲法を生かそう」をスローガンとして弁護士活動をしてきました。同じ事務所の村山志穂弁護士によると、事件処理に関しては、ガチンコ対決、つまり白黒つけるというより、仲裁型の事件処理が多いようだということです。所沢簡裁の調停委員として、調停協会の会長も最近までつとめていたそうです。
この本を読んで初めて知り、驚いたことは、第二次大戦終了後まもなくの1946年1月24日の幣原喜重郎首相とマッカ-サー連合国最高司令官の二人だけの会談の内容です。終戦直後のマッカーサーは、今から思うと信じられないようなことを断言していたのです。
「戦争を時代遅れの手段として廃止することは私の夢だった。原子爆弾の完成で、私の戦争を嫌悪する気持ちは当然のことながら最高度に高まった」
これを聞いた幣原首相は、涙で顔をくしゃくしゃにしながら、こう応答した。
「世界は私たちを非現実的な夢想家と笑いあざけるかもしれない。しかし、百年後には私たちは予言者と呼ばれます」
いやあ、すばらしい対話です。これを知っただけでも、この本を読んだ甲斐がありました。
さらに、同じ年(1946年)10月16日、マッカーサー元帥は昭和天皇とも会談します。そのときマッカーサーは、こう述べました。
「もっとも驚くべきことは、世界の人々が戦争は世界を破滅に導くことを、十分認識していないことです。戦争は、もはや不可能です。戦争をなくすのは、戦争を放棄する以外に方法はありません。日本がそれを実行しました。50年後には、日本が道徳的に勇猛かつ賢明であったと立証されるでしょう。100年後には、世界の道徳的指導者になったことが悟られるでありましょう」
こんな素晴らしいことを言っていたマッカーサーが、朝鮮戦争のときには原爆使用を言いだして罷免されるのですから、歴史は一筋縄ではいきません。
アメリカのトランプ大統領は世界の不安要因の一つだと私は思いますが、アメリカ国内の支持率は46%だといいます。恐ろしいことです。そのトランプ大統領は、「アメリカは核兵器を保有しているに、なぜ使用できないのか」と外交専門家に、1時間のうちに3回も同じ質問を繰り返したそうです。安倍首相が100%盲従しているトランプ大統領の実体は危険にみちみちているとしか言いようがありません。
原爆も原発も、核エネルギーの利用という点で共通している。核エネルギーの利用は、大量の「死の灰」を発生させる、人類は、その「死の灰」、すなわち放射性物質と対抗する手段をもっていない。放射性物質は、軍事利用であれ、平和利用であれ、人間に襲いかかってくる。原爆被爆者は、「死の灰」が人間に何をもたらすかを、身をもって示している。
著者は、最近の米朝会談や南北首脳会談について、日本のマスコミが、おしなべてその積極的意義を語らず、声明の内容が抽象的だとか非難して、その成果が水泡に帰するのを待っているかのような冷たい態度をとっていることを厳しく批判しています。私も、まったく同感です。2度の南北首脳会談を日本人はもっと高く評価し、それを日本政府は後押しするよう努めるべきです。そして、アメリカと北朝鮮の対話が深化して、朝鮮半島に完全な平和が定着するよう、もっと力を尽くすべきなのです。それが実現してしまえば、イージス・アショアは不要ですし、F35だって147機の「爆買い」なんて、とんでもないバカげたことだというのが明々白々となります。
この本は、著者が自由法曹団通信など、いわば身内に語りかけたものをまとめたものですので、一般向けのわかりやすい本になっているとは必ずしも思われません。とくに、それぞれの論稿に執筆年月日が注記してあるのは目障りです。これは貴重な資料だと途中から粛然とした思いになって、最後まで一気に読み通しました。お疲れさまでした。
(2019年5月刊。1900円+税)
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