弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2019年5月11日

KID キッド

警察

(霧山昴)
著者 相場 英雄 、 出版  幻冬舎

この本を警察小説と言ってよいか、やや疑問はあります。というのは、警察庁の高級幹部を相手としてたたかうのは元自衛隊員だからです。それでも警察内部の公安と刑事の派閥抗争、そして首相官邸のなかに喰い込んでいる警察官僚と三つどもえの内部抗争のすさまじさがよく描かれているので、警察小説のジャンルに入れてみました。
自衛隊には、日本にゲリラやテロリストが潜入したときに即時対応できるよう訓練された特殊部隊「特殊作戦群」がある。この部隊については、防衛大臣、官邸の幹部、そして自衛隊のなかでも統合幕官僚長や陸自の幹部が詳細を知るだけ。
高速道路や幹線道路には、警察庁のNシステムが稼働している。あらゆる車両のナンバーと運転手、助手席に乗る人間を鮮明な写真データで保有する仕組みだ。
ドラッグネットは、アメリカの国防総省傘下の諜報機関、国家安全保障局(NSA)が構築したプリズムというシステムをもとにつくられた。
アメリカは9.11のあと、愛国者法を制定し、国民ひとり一人のもつ膨大な量の個人情報の収集を始めた。大規模収集という手法で、通信会社の協力を得て、国民の通話やメール履歴をすべて監視している。
アメリカ政府は、ネットのプロバイダーだけでなく、通販大手やSNS大手のサーバーも監視の網を広げ、個人の発するありとあらゆる情報を吸い上げている。
日本はこの仕組みを導入し、その際、独自にシステムを整備・改造して構築したのが底引き網という名のドラッグネットだ。
狙いをつけたメディアに対しては、固定電話、主要な取材スタッフの携帯電話、社用メール、個人のSNSもほとんど公安が盗聴し、モニターしている。公的権力の監視網は徹底的だ。
個人を特定する顔認証システムも半年間で5回もバージョンアップしている。
もちろん、当然のことながら小説ですからフィクションです。それでもアベシンゾー首相のような視野狭い人物が首相になっていて、狡猾・陰険なスガ官房長官のような人がいて、フィクションと言いながらも現代日本の政治状況をほうふつとさせる場面展開があり、手に汗握るアクションの連続です。政治の舞台裏はかくにありなむと思わせ、私たち国民も手をこまねいていたり、冷笑するだけではすまないと思うばかりです。
アベ・スガ批判の本では決してありませんが、狂人のような集団に政権を握らせると怖いという実感をひしひしと感じさせてくれる本でもあります。そんなストーリーなのに、産経新聞に連載していたというのに少し驚きました。
(2019年3月刊。1600円+税)

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