弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2019年5月 5日
オスマン帝国
トルコ
(霧山昴)
著者 小笠原 弘幸 、 出版 中公新書
オスマン帝国は600年続いた。それは、日本でいうと鎌倉時代から大正時代までに相当する。
どひゃあ、す、すごーい。なんという長い帝国でしょうか。日本では鎌倉のあと室町そして戦国時代から江戸時代、明治、大正へ続くのです。
ひとつの王朝が実権を保ったままこれほど長く存続したのには、もうひとつハプスブルク帝国がある。広大さを誇るモンゴル帝国は、わずか150年ほどで消え去った。
そして、このオスマン帝国は現代トルコで「偉大なる我々トルコ人の過去」として再評価されている。
この本は、なぜ、これほど長命の帝国だったのか、その謎を解明しています。なるほど、そうだったのか・・・、知らないことだらけでした。
オスマン朝では、君主(カリフ)の生母のほとんどは奴隷だった。オスマン朝では、生母の貴賤が問われることはなかった。イスラム法では、母親の身分にかかわらず、認知さえされていれば、子がもつ権利は同等である。母が奴隷であることは、カリフたちの権威をなんら貶(おとし)めるものではなかった。奴隷だった母親は、非トルコ系の元キリスト教徒だった。
ムラト1世の時代に、常備歩兵であるイェニチェリ軍団が創設された。イェニチェリとは、新しい軍のこと。イェニチェリ軍団は、ムスリム自由人ではなく、元キリスト教徒の奴隷によって構成されていた。
イスラム法のもとでは、奴隷にも一定の権利が保障されていて、かつ、奴隷の解放は宗教的な善行として推奨されていた。
奴隷部隊は、精強であるのみならず、君主以外には地縁・血縁による後ろ盾をもたないことから、諜返の可能性は低かった。
奴隷を王子の母とするには、王朝にとって2つの大きな利点があった。そのひとつは、外戚の排除。というのも奴隷は基本的に親族から切り離された存在であり、その外戚が国政につけ入るスキがない。このように、オスマン帝国が、長命を保った理由の一つには奴隷が王の母として選ばれていたことによる。
もう一つは、男児の確保。奴隷をもちいることで、世継ぎを得る可能性が高まる。
チンギス・ハンの権威を利用しているティムール朝に対して、オスマン朝は、理念的には、より広いオグズ・ハンの後継者として主張することでチンギス・ハンとは異なる出生というのを主張した。
メフメト1世、ムラト2世はキリスト教徒臣民の少年を徴用する人材制度を始めた。デヴシルメと呼ぶ。キリスト教徒の農村から頭が良くて身体壮健な少年たちが選ばれた。とくに優秀な者は宮廷に入り、それに次ぐものは常備騎兵軍団に入り、残りはイェニチェリ軍団に入り、さらに残ったら、イェニチェリ軍団に組み込まれた。
イスラム法では、支配領内にいるキリスト教徒臣民を奴隷にするのは本来なら認められない。そこを、なんとかしようとして、取り込んでいる。
オスマン朝の王位継承をめぐっては血塗られた歴史がある。兄弟殺し。スルタン即位時にその兄弟を処刑する慣習があった。これがオスマン帝国が長く命脈を保つことのできた大きな理由だ。君主と同年代の王位継承候補を制限したのだ。王子が子をもうけると、現君主は、もはや子を生さず、若すぎる王位継承者をつくらないという慣習があった。
世界の秩序のためには、兄弟を処刑することは許されるというのが、法令集に堂々と記載された。そして、メフメト3世が即位したときには19人の王子が処刑され、人々の悲嘆をまねいた。そのため、それ以降は、王子たちはオートマチックに処刑されることはなくなった。
そして、殺されなかったスルタンの兄弟は、宮殿の奥深くに隔離され、そこで外界との接触を断って育てられた。これを鳥籠(とりかご)制度と呼ぶ。君主の「控え」が存在するようになったのだ。
戦国そして江戸時代との比較を考えながら、世の中は本当にさまざまなのだと実感されられました。
(2019年1月刊。900円+税)
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