弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2019年5月 3日

中国の若者が見つけた日本の新しい魅力

中国・日本

(霧山昴)
著者 段 躍中 、 出版  日本僑報社

博多駅は、いつ行っても外国人旅行客であふれています。安心・快適な旅を楽しんでほしいと心から願いつつ、横を通り過ぎます。団体客というより、家族・個人旅行者が大半です。団体行動しているのは、むしろ日本人ツアーの人々です。外国人には、韓国・中国の人々が断然多いと思います。たまに遠いアジアの人たち、さらにたまにヨーロッパ系の旅行客です。
この本は、日本にやって来た中国人青年たちによる日本語作文コンクールの受賞作品を紹介しています。幸いなことに、中国では日本語を学ぶ若者たちが増えているようです。日本でも大学で中国語を学ぶ学生が増えたと聞きましたが、最近はどうなのでしょうか・・・。
嫌韓・嫌中、日本ファースト、ヘイトスピーチだとか、差別的なコトバをまき散らす大人が目立つ社会風潮ですが、そんなものに負けてはおれませんよね・・・。
ヘイトスピーチを繰り返すネトウヨは、実は若者ではなく、いい年齢(とし)をした中年に多いと言われています。先日発覚したネトウヨ、ヘイトスピーチ発信者は東京の年金事務所長でした。とんでもない男です。
この日本語作文コンクールには、中国全土から4288本もの応募があったそうです。受賞作品は、やはり読みごたえがあります。
福岡県弁護士会でも、新会館落成記念行事の一つとして「法について」をテーマとして高校生作文コンクールを呼びかけたところ、県下の高校生から500通以上の作文が寄せられました。それには授業の一環とした高校もあったからのようですが、私も審査員の一人として、その多くに目を通しました。今どきの日本の高校生も、やはり考えている人は考えているということを知り、なんだかうれしくなりました。若者をバカにしてはいけないのです。
最優秀賞は、「車椅子で東京オリンピックに行く」というタイトルの作文です。60歳の祖母は交通事故にあってから車椅子で生活している。京都に短期交流にきた孫娘はバスに車椅子の人が乗り込む様子をみて、ぜひ祖母を日本に連れてきて、東京オリンピックを一緒に見たいと書いています。
車椅子の人たちが、日本できちんとした処遇を受けているとは思えませんが、なるほどそんな人たちを大切にしようという取り組みもたしかにあります。この動きを大切に育てなくてはいけないと思わせる作文です。
日本人の多くは『三国志』を読んでいる。それは本であり、マンガであり、最近ではゲームだ。私は高校生時代に吉川英治の『三国志』をハラハラドキドキしながら読んだ。
多くの中国人青年が日本発の『三国志』ゲームをしたことから『三国志』の本を読みたいと思うようになった。今、中国の若者たちはスマホとコンピューターに溺れるばかりで、中国の伝統文化にまったく興味がない。
まあ、これは日本の若者にも共通しているように思えますが・・・。
中国の若者たちの目を通して日本を改めて知ることのできる本です。
中国が攻めてきたとき、日本の領土をどうやって守るのかと真面目に心配している弁護士がいます。アベ政権は、沖縄周辺の諸島に自衛隊を数百人ずつ配置することを先日発表しました。戦争になったとき、数百人の自衛隊員で島を守れるなんて幻想というか夢のようなものです。それでも、軍需産業だけは確実にもうかります。こうやって戦争へ駆り立てられていくのかと思うと恐ろしい気がします。
やはり、人々同士の交流をもっと広め、深めることこそが戦争にならない最大の効果的対処法です。政治はそのためにこそあるべきだと思います。
(2018年12月刊。2000円+税)

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