弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2019年4月23日

アメリカ死にかけた物語

アメリカ


(霧山昴)
著者 リン・ディン 、 出版  河出書房新社

アメリカに住む、1963年・サイゴン生まれのベトナム人で、詩人・小説家・翻訳家である著者が2013年から2015年までアメリカ各地を歩きまわった体験エッセーです。
著者は1975年に家族とともにベトナムを脱出してアメリカへ逃れ、アメリカに長く住んでいたものの2018年にベトナムに帰国した。
著者は、出版社やスポンサーに金銭的な援助を受けずにアメリカ中を旅した。移動は、常にバス、電車、徒歩で、泊まるのも安ホテル。ときには、バスの車内や路上ということもある。そこから見えてくるのは、アメリカの低所得者の人々の現実。ホームレス、ドラッグ中毒者、飲んだくれ、身体障害者、日雇い労働者、バーテンダーなど。
アメリカの困窮した都市の多くでは、知らない店に入るということは、偵察斥候か自殺するようなもので、観光客のすることではない。
ペンシルベニア州のチェスターでは、凶悪犯罪の比率が全国平均の4倍以上も高い。
アメリカのバーには、客層がほぼ黒人だけか、白人だけになる傾向がある。
ペンシルベニア州のスクラントンでは、張り紙にこう書かれている。
「懸賞金。P電力会社は、当施設から銅線やその他の資材を盗んだ人の逮捕につながる情報をくれた人に、上限1000ドルの報酬を提供します。
電気設備や備品、電線を盗むのは危険です。負傷したり、死を招くこともあります」
これって、日本ではちょっと考えにくい張り紙ですよね・・・。
シリコンバレーには黒人がほとんどいない。サンタクララ郡で一番多いのはアジア人で、34,1%を占める。次に白人で33,9%、ヒスパニック系は26,8%。黒人はわずか2,9%だ。
IT系の仕事に関しては、アジア人と白人が過半数を占めている。
これほど、多くのインド人がシリコンバレーで成功しているのは、インド人が比類のないほどパソコンに強いからだ。
カリフォルニア州では、住宅の20%が外国人によって現金で購入されている。その半分が中国人だ。中国人は、数百万ドルもする豪邸を、値切る代わりに定価より高く購入することさえある。
金持ちの中国人は、自分たちの富を守るために、カリフォルニアで住宅を購入している。
人も国も、どっちを向いても、みんな「死にかけて」たままであり、そのなかで生きなきゃならない。そんなアメリカの底辺の息づかいが伝わってくる本でした。
(2018年10月刊。3200円+税)

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