弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2019年4月12日
大いなる聖戦(上)
日本史(戦前)・ヨーロッパ
(霧山昴)
著者 H.P.ウィルモット 、 出版 図書刊行会
第二次世界大戦の通史ですが、「英雄・悪玉史観」は意図的に排除されています。
戦争ではなく、国家間の抗争といった文脈のなかで、国家権力と軍との関係に焦点をあてている本です。
現代の戦争は、社会集団・組織機構間で戦われるものだ。
ダグラス・マッカーサーは、アジア・太平洋戦争で勝利を収めてはいない。
1942年秋のエル・アラメインの戦いは、バーナード・モントゴメリーとエルヴィン・ロンメルとの一騎打ちではない。
ドイツ軍は軍事上の成功にもかかわらず、国家としては粉砕された。ドイツ軍の事実上の天凛が発揮されたのは戦闘においてであって、戦争においてではなかった。ドイツは、その同盟国日本と同じく、大国の中で戦争の本質を理解していなかった国家なのである。
ソ連は、政治・経済・軍事面では、むしろ敗戦国としての側面を有していた。
太平洋戦争で最大の海上作戦であるレイテ沖海戦が展開されたのは、戦争の帰趨が決したあとだった。
日本が満州を征服した要因として、二つあげられる。第一に、日本を急速かつ急激に襲った大恐慌。不況に直面するなかで、日本の経済問題を解決するカギは満州占領にあるという考えが日本全般で幅広く受け入れられた。第二に、中国の内政に干渉し続けてきたため、日本陸軍に上層部の認可も行政府の撃肘も受けずに行動する体質が根付いていたことによる。
ヒトラーが最高権力者の地位にのぼりつめることができた理由の一端も大恐慌に求められる。ヒトラーの強みは、ドイツの伝統・文化・政治理念に深く根ざしたある種の価値観・信念を体現した存在であったことにある。自由主義に根ざした民主政治を否定し、合意よりも強権、理性よりも意志、個人よりも民族・社会、謙虚さよりも力を重んじるというような、現実離れしたドイツの価値観の集合体を代弁する者こそがヒトラーだった。
1940年当時、イタリア社会にファシズムは確固とした根をおろしていなかった。イタリアのファシズムは思想的基盤をもたず、民衆へのアピールに欠けるものだった。
ムッソリーニが政権を掌握して20年近くたっていても、イタリアの一般大衆は、ドゥーチェ(ムッソリーニ)とファシズムのために命を的にして戦うような心情を有していなかった。
イタリアのファシズムは、単にムッソリーニの狡猾さと機会主義的姿勢を推し進めるための隠れ蓑にすぎなかった。
ヒトラーが発動したバルバロッサ作戦は目標の選定と作戦指導の両面で欠陥を有していた。なぜなら、その作戦の大半の期間中、ドイツ軍が主導権を握っていたににもかかわらず、ドイツの敗北に終わったからである。その作戦が進展していくにつれて、目標間の優先順位を決めかねるのが常態となっていたというのは、バルバロッサ作戦の大きな失策を示すものだ。
ヒトラーが気まぐれであり、部下の判断と能力を信用せず、合議制や決められた指揮系統を通じて決定を下すことがまったく出来なかったことが、結果として、既定方針に従って作戦を遂行する妨げとなった。戦いが進むにつれて、この首尾一貫しないヒトラーの態度によって、時間との闘いを強いられていたドイツ軍は貴重な時間を失っていった。
また、ドイツ軍の残虐性は、ドイツ軍にとって有害無益で、東部戦線でのドイツ側の敗北を決定づけた最大の要因と考えられる。1941年夏の段階では、ソ連社会の相当部分が、スターリンの暴虐な支配からの解放者としてドイツ軍を歓迎したが、ドイツ軍が捕虜と民間人を野蛮に扱うのを目の当たりにすると、ソ連国民は即座に現実を悟った。外部からの侵入者は、ソ連市民が手許に有していたわずかなもの、とくに希望までをも奪い去ってしまうということを。
ここに皮肉な状況が現出した。スターリンが、自身では自らの支配の正当性を確立できていないなかで、ヒトラーは、ソ連の民衆を彼らが命をかけて戦わざるを得なくなるような状態に追い込むことによって、スターリンの支配を正当化することになり、最終的にはソ連における共産党の支配が持続することを確かなものとした。
なかなか鋭く、説得的な歴史分析がなされていて、圧倒される思いで読みすすめました。
(2018年9月刊。4600円+税)
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