弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2019年4月 7日

モンテレッジオ、小さな村の旅する本屋の物語

イタリア

(霧山昴)
著者 内田 洋子 、 出版  方丈社

私はイタリアにはミラノしか行ったことがありません。スイスからバスと列車でコモ湖に行き、そこからミラノに入ったのです。
そのミラノから車で2時間あまり、山の中にある小さな村、モンテレッジオ。
現在、モンテレッジオの人口は、たったの32人。男性14人、女性18人。そのうち4人は90歳代。就学期の子どもが6人いるものの、村には幼稚園もなければ、小学校も中学校もない。食料品や日用雑貨を扱う店もない。薬局や診療所、銀行もない。郵便局は閉鎖されていて、鉄道はおろかバスもない。
8月半ばの村祭りのときだけ人口が200人をこえる。そして、その村祭りとは、古本市。村の自慢の品は本なのだ。
海がなく、平地もなく、大理石の採石もできない。つまり、海産物も農作物も畜産品も天然資源もとれない村。それらが豊富な土地へ行くための通過地点という重要な役割があった。つまり、この村の特産品は、なんと「通す権利」。村には売る特産物がないので、本を売った。
ミラノから最寄りの駅まで3時間。そこからバスでさらに3時間かかる。
村勢調査によると、1858年ころのモンテレッジオの人口は850人で、うち71人の職業が「本売り」だった。
出版社は、モンテレッジオの本の行商人たちを大変に重宝した。読者たちの関心や意見を詳しくつかむことができたからだ。本を選ぶのは、旅への切符を手にするようなもの。行商人は駅員であり、弁当売りであり、赤帽であり、運転士でもある。
本を売る行商人たちの村があったというのは驚きです。私もたまに神田の古本街を歩きますし、古本目録を眺めます。古本を商品とする行商人が中世からいたなんて、信じられない思いでした。現代社会では電子図書ばやりですが、紙の本には特別の良さがあります。中古本だって、価値が下がることはないのです。
私のような本好きの本にはたまらない旅行記でした。
(2018年9月刊。1800円+税)

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