弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2019年3月28日

老いた家 衰えぬ街

社会

(霧山昴)
著者 野澤 千絵 、 出版  講談社現代新書

全国の空き家予備軍率ランキングは、九州でいうと1位が北九州市門司区、2位は別府市、3位が薩摩川内市だそうです。
空き家については、所有者自身、対応したくても対応の難しいケースが非常に多く、所有者だけを責めるのは酷なケースが多い。その事情は、所有者が高齢で資金的に困窮している、判断を下すのが困難、相続人同士で意見がまとまらない、何代も相続登記していないので所有者である相続人が多数になって身動きがとれないなど、さまざまだ。
戸建ての4戸に1戸がすでに「空き家予備軍」になっている。
空き家をもっていると、コストがいろいろかかる。同じく、分譲マンションで空き住戸となると、戸建てに比べて、保有コストの負担が重い。
相続放棄しても、相続しなかったはずの空き家についての財産管理責任がある(民法940条)。つまり、空き家を放置していて、ちょっとした強風で屋根瓦が吹き飛んで通行人をケガさせたとき、賠償責任が問われることがあるのです。
地方自治体に空き家を寄付して責任を逃れようと思っても、自治体は政策として明確な使用目的がなければ不動産の寄付を受けつけることはしない。
埼玉県内では、空き家の庭にシュロが植えられていることが多い。それは、1960年から70年代にかけての南国ブームのなかで、各家庭でシュロを植えることが流行していたから。そして、空き家になった庭にシュロだけが相変わらずぐんぐん成長しているということ。
分譲マンションにも所有者不明問題は蔓延しはじめている。
相続放棄の受理件数が増えて、2016年には20万件近くになっている。1085年には4万6千件だったので、30年間で4倍になった。
相続人がいない財産は最終的には国庫に帰属することになっている。したがって、国庫に帰属した相続財産は2014年に434億円、2015年に421億円。ところが、不動産のまま国庫に帰属したのは、2014年に32件、2015年に37件しかない。
つまり、きわめて例外的な場合を除いて、実務上、国が不動産のまま引き受けることはほとんどない。
この本で、著者は「住まいの終活」を提唱しています。確かに住居についても、どうするのか、あらかじめ考えておくべき時代に既になっているように思います。
実務的に大変勉強になる本でした。
(2018年12月刊。840円+税)

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