弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2019年3月20日

麦酒とテポドン

朝鮮


(霧山昴)
著者 文 聖姫 、 出版  平凡社新書

北朝鮮の人々の生活の実情に迫った貴重なレポートです。
著者は朝鮮総連機関紙の朝鮮新報記者をしていて、拉致事件を北朝鮮が認めたことから嫌気がさして職場をやめ、大学で学び直したあと一般ジャーナリストになったのでした。
平壌には、2度も特派員として住んでいましたし、在日コリアン2世として朝鮮語にも堪能ですから、現地取材も容易にできたのです(といても基本的に案内員が同行)。
平壌市内にも市場経済の大波がひたひたと洗っている状況がよく分かります。
合法的な農民市場があり、非合法的な「キルゴリ市場」(露店)が全国各地にある。これらの市場では、工場や企業所に出勤せず、おのおの自家製のパンや麺類などを売って稼ぐ人々がいる。
1990年代の経済危機に直面した金正日政権は、市場をつぶすのではなく、これをいったんは容認し、供給システムが正常化するまでの代替手段として利用する現実的な政策を選択した。
2010年に北朝鮮に訪問したとき、従業員の食糧を自力で解決する企業所や工場が増えていた。そうしなければ、従業員が離れてしまうのだ。
市場が「必要悪」として欠かせないものと認識されていた。
路上の市場は、メトゥギ市場、つまりバッタ市場と呼ばれていた。ときに取り締りの警察官が来ると店の売り子たちがとんで逃げていく様子がバッタに似ているということ。それでも、また舞い戻って市場を再開して商売を続けるから、チンデゥギ市場、ダニ市場と呼ばれるようになった。このダニはたくましさの象徴であって、悪いイメージはない。
貧しい人々の多い北朝鮮でも、新興富裕層が台頭してきている。
いったい、どんな人々なのでしょうか・・・。
2013年4月、北朝鮮政府は不動産の売買を公的に認めた。そのため不動産価額が4年前の10倍にはね上がっている。
北朝鮮には、公式的には「私企業」は存在しない。しかし、個々と細々と商売している非公式の個人事業主は存在する。
北朝鮮の経済は、もはや厳格な社会主義計画経済ではない。
社会主義企業責任管理制なるものが導入されて、すっかり変わった。農業においても、集団で所有する農地を農家が分割して個別に請け負う。集団への留保分を除いて、残りすべては農家が自由に処分してよい。これは、限りなく個人農に近づいたということ。
現在、北朝鮮には経済特区が24ヶ所ある。全通に設置されている。中央クラスの特区が5ヶ所、地方クラスの特区は19ヵ所。
北朝鮮は世界各国に労働者を派遣している。それは23ヶ国に及ぶ。中国、ロシア、カンボジア、ベトナム、ポーランド、クェート、アラブ首長国連邦など・・・。このように労働力は貴重な外資獲得手段になっている。
北朝鮮の大同江ビールは、韓国のビールよりうまいとの定評がある。
北朝鮮で停電は日常茶飯事で、懐中電灯は生活必需品だ。そして、都市型アパートの10~15%がベランダや窓にソーラーパネルを取りつけている。
金正恩とトランプ会談がシンガポールそしてベトナムで実現したことを、私は心からうれしく思っています。まだまだ実のある成果はでていませんが、こうやって直接話し合っている限り、戦争行為が当面ないことは間違いありません。イージスアショアなんて、まるで無用です。
北朝鮮の人々の生活実態をしっかり認識し、彼らのプライドも尊重して交渉を続けることこそ真の平和は生まれると確信しています。とてもいい本でした。
(2018年12月刊。840円+税)

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