弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2019年2月14日
目の眩んだ者たちの国家
韓国
(霧山昴)
著者 キム・エラン、キム・ヘンスク その他 、 出版 新泉社
あまりのむごさに、この事件を思い出すたびに胸が詰まります。
今から5年前、2014年4月16日、修学旅行中の高校生を中心に304人もの犠牲者を出したセウォル号の惨事について、韓国の文学者たちが語っています。読みすすめるにつれ、本当に切なくて、胸がつぶれる思いです。
368人と言ったかと思うと164人だと言う。何日か後には174人と言い、またすぐに今度は172人だと言う。船が傾いてから、7回以上も訂正が繰り返された。
事故当日、外国のマスコミが遭難者の水温別の生存可能時間について報じているときに、韓国では死亡保険金の計算をしていた。
船会社も政府もセウォル号に乗船していた人数さえも正確に把握できず、数字にすらあらわれない彼らは、いまも海の底で冷たく、固くなっている。
沈没するセウォル号の巻き添えを食って船が転覆しないように、遠くへ離れていたという海洋警察123艇が、ただ一度だけ船に近づいて直接救助したのは、その船の運航に責任のある船長をはじめとした乗務員たちだった。
自分の判断で船から脱出した人たちを除いて、じっとしていなさいという船内放送にしたがって客室で待っていた乗客はただの一人も救助されなかった。
修学旅行の壇園高校の生徒たちをはじめ乗客の大部分は、船内放送の指示どおり「じっと」していた。冷静で落ち着いて協力的な人は無惨に死ぬしかない、というこの真実は、経済成長という化粧の下に隠された韓国社会の素顔なのかもしれない。
日本で18年も運航していた古い船で、無分別な規制緩和のおかげで輸入された船だった。修理はいつでも応急措置だったし、無理な改造と増築で船の重心は高くなっていた。より多くの貨物を積むために、船体の安定に絶対的な影響を及ぼすバラスト水は大量に抜かれていた。
船長は契約社員で、一等航海士と操機長は出航前日に採用された職員だった。
出航直前、船員たちは出航を拒否したが、船会社が平身低頭で頼み込んで出航したという。
霧が深く立ち込める夜だった。他の旅客船はすべて出港を中止したので、その夜、仁川港を出港した船はセウォル号だけだった。翌日、船は沈没した。
政府は全力をあげて救助活動を行っているとの速報がゴールデンタイムの時間に流れた。全部嘘だった。救助隊員726人と艦艇261隻、航空機35機を集中投入した史上最大規模の捜索作戦を繰り広げるという記事もあった。史上最大規模の嘘だった。
国家が国民を救助しなかった「事件」なのだ。国家が国民を守るという義務を怠ったとき、国家はどんな処罰を受けるべきなのか?
何か間違っているとは思っていたけれど、まさかこれほどまでとんでもなく壊れていたとは・・・。この国の民主主義は、すでに遠くに流され、いまはもう、民主主義とは似て非なる体制に移行しつつあるとは思っていたが、国家の基本的な機能さえ果たせないほど無能になっているとは、ついぞ知らなかった。
どうですか、これは隣の韓国の話ではなく、私たち日本の国についての指摘ではありませんか。国の行政の基礎をなす統計がインチキしてごまかされ、それをまったく不問に付してしまう。
韓国に対しては「間違っている」と根拠なく声高に決めつけておきながら、ロシアのプーチン大統領に対しては「日本固有の領土」とも言えない。アメリカのトランプ大統領にたいしては、もみ手ですり寄って、必要もない有害でしかない欠陥ステルス型戦闘機を147機も購入(爆買い)する。そして、奨学金は有利子にし、年金は減らし、介護保険料は値上げする。とんでもない間違った政策が続いていて、ストップがかからない。
国民を守るための(はずの)政府が、国民を戦場に追い込み、殺し、殺されるように追いやっていながら、それに反対の声が上がらぬようマスコミ統制を強化する。
背筋に詰めたいものが流れていきます。今後はぐっすり眠れそうもありません。日本の現実にも思い至らせる、すばらしい、目のさめるような本です。
(2018年5月刊。1900円+税)
カテゴリー
- イギリス・ロシア (1)
- モンゴル・戦前(日本史) (1)
- 社会・アメリカ (1)
- 日本史(戦前・戦後) (1)
- 人間・司法 (1)
- フランス・司法 (1)
- 昆虫・ゴリラ (1)
- インドネシア (1)
- 社会・犬 (1)
- 日本史・ベトナム (1)
- 生物(タコ) (1)
- 生物・ネズミ (1)
- 生物・人間 (1)
- 人間・アイヌ (1)
- 地球・宇宙 (1)
- 世界史(戦前) (1)
- フランス・シリア (1)
- 花・昆虫 (1)
- 人間・サル (1)
- フランス・人間 (1)
- 人間・スイス (1)
- 韓国・人間 (1)
- 社会・司法 (3)
- アメリカ・司法 (2)
- フィンランド (1)
- ドイツ・イギリス (1)
- 生物(クモ) (1)
- ロシア・カザフスタン (1)
- 中国・日本史(戦前) (1)
- アメリカ・アフリカ・イギリス (1)
- 人間・犬 (1)
- 犬・猫 (2)
- オーストリア (2)
- 社会・女性・フランス (1)
- 社会・韓国 (1)
- 犬・人間 (1)
- 犬(オオカミ) (1)
- 人間・イギリス (1)
- ヨーロッパ・フィンランド (1)
- バングラデシュ (2)
- 日本史(戦前)・韓国 (1)
- 日本史(江戸)・社会 (1)
- 人間・チンパンジー (1)
- イタリア・社会 (1)
- アメリカ・社会 (2)
- ヨーロッパ(リトアニア) (2)
- 社会(アイヌ) (1)
- アメリカ・動物 (1)
- 日本史(戦前)・ドイツ (2)
- 日本史(戦前)・朝鮮 (1)
- 中国・日本 (1)
- チェコ (1)
- 日本史(戦前)・ヨーロッパ (1)
- アメリカ・ロシア (2)
- 牛 (2)
- 朝鮮・日本史(戦前) (1)
- オオカミ (1)
- フィリピン (2)
- 社会・中国 (1)
- 中東(シリア) (1)
- 鳥・人間 (1)
- オランウータン (1)
- 日本史(江戸時代) (3)
- 日本史(戦前)・アメリカ (1)
- ドイツ・ブラジル (1)
- 地球 (2)
- スペイン (3)
- 人間・アメリカ (1)
- 日本史(古代) (15)
- 南アメリカ(ペルー) (1)
- 北朝鮮・中国 (1)
- 社会(司法) (6)
- アメリカ・ベトナム (1)
- 生物(人間) (2)
- 生物(アリ) (1)
- 生物(クマ) (1)
- アフガニスタン (2)
- リトアニア (1)
- 司法(アメリカ) (2)
- メキシコ (1)
- 日本史(室町) (2)
- 明治・人間 (1)
- 戦前 (1)
- ブラジル (1)
- 社会・人間 (2)
- 生物(ハチ) (1)
- ヨーロッパ(ポーランド) (5)
- 犬・アメリカ (1)
- 生物・魚 (2)
- キューバ (3)
- 中国(台湾) (2)
- イラン (4)
- ブータン (1)
- 日本史(奈良) (2)
- 人間・脳 (6)
- 日本史(大正) (1)
- シリア (7)
- カナダ (2)
- 宇宙・星 (1)
- 蜂 (2)
- ドイツ・シリア (1)
- 鳥 (24)
- 魚 (4)
- 生物(昆虫) (5)
- 日本史(戦争) (1)
- カンボジア (1)
- トルコ (2)
- ドイツ・ポーランド (1)
- 中国・アフリカ (1)
- ネパール (1)
- ベトナム (6)
- 韓国 (13)
- イスラエル (4)
- 猫 (3)
- 司法(明治) (1)
- 生物(鳥) (8)
- 生物(植物) (3)
- ヨーロッパ(ギリシャ) (2)
- 北朝鮮 (3)
- スウェーデン (4)
- 南アメリカ (3)
- ドイツ・ロシア (6)
- 生物(馬) (1)
- ヨーロッパ・スペイン・ベルギー (1)
- 社会 中国 (1)
- タイ (2)
- ゴリラ (3)
- ポーランド (4)
- イラク (3)
- 生物 (59)
- ローマ (1)
- イタリア (7)
- 生物(木) (1)
- 日本史(戦前) (134)
- 日本史(戦後) (36)
- 警察 (12)
- アフリカ (30)
- イギリス (35)
- アジア (29)
- アジア(フィリピン) (5)
- アメリカ (370)
- インド (14)
- サル (7)
- ドイツ (110)
- ファンタジー (2)
- ヨーロッパ (96)
- ロシア (57)
- 世界 (8)
- 世界(フランス) (36)
- 世界(ヨーロッパ) (20)
- 世界(ロシア) (7)
- 世界史 (4)
- 世界史(古代オリエント) (1)
- 世界史(現代) (1)
- 世界史(ヨーロッパ) (7)
- 世界史(中国) (2)
- 世界(アフリカ) (32)
- 世界(アラブ) (11)
- 中世史 (1)
- 中南米 (2)
- 中国 (108)
- 中東 (16)
- 人間 (327)
- 司法 (484)
- 司法(江戸) (7)
- 司法(警察) (33)
- 宇宙 (52)
- 恐竜 (8)
- 日本史 (68)
- 日本史(中世) (27)
- 日本史(平安時代) (32)
- 日本史(戦国) (120)
- 日本史(明治) (78)
- 日本史(近代) (32)
- 日本史(古代史) (45)
- 日本史(江戸) (160)
- 日本史(現代史) (76)
- 日本史(鎌倉時代) (18)
- 明治 (4)
- 朝鮮 (36)
- 朝鮮(韓国) (46)
- 東南アジア (10)
- 江戸時代 (79)
- 犬 (21)
- 現代史 (2)
- 生きもの(魚) (12)
- 生き物 (193)
- 生き物(小鳥) (16)
- 生き物(ゾウ) (4)
- 生物(花) (4)
- 社会 (1354)
- 脳 (39)
- アメリカ・メキシコ (1)
- エジプト (1)
- フランス (19)
- 中国・朝鮮 (1)
- 人間・ボノボ (1)
- 動物 (4)
- 日本史(中世・戦国) (1)
- 朝鮮・日本史(戦国) (1)
- 植物 (1)
- 江戸 (14)
- 江戸・明治 (1)
- 生物(虫) (1)
Backnumber
- 2020年9月
- 2020年8月
- 2020年7月
- 2020年6月
- 2020年5月
- 2020年4月
- 2020年3月
- 2020年2月
- 2020年1月
- 2019年12月
- 2019年11月
- 2019年10月
- 2019年9月
- 2019年8月
- 2019年7月
- 2019年6月
- 2019年5月
- 2019年4月
- 2019年3月
- 2019年2月
- 2019年1月
- 2018年12月
- 2018年11月
- 2018年10月
- 2018年9月
- 2018年8月
- 2018年7月
- 2018年6月
- 2018年5月
- 2018年4月
- 2018年3月
- 2018年2月
- 2018年1月
- 2017年12月
- 2017年11月
- 2017年10月
- 2017年9月
- 2017年8月
- 2017年7月
- 2017年6月
- 2017年5月
- 2017年4月
- 2017年3月
- 2017年2月
- 2017年1月
- 2016年12月
- 2016年11月
- 2016年10月
- 2016年9月
- 2016年8月
- 2016年7月
- 2016年6月
- 2016年5月
- 2016年4月
- 2016年3月
- 2016年2月
- 2016年1月
- 2015年12月
- 2015年11月
- 2015年10月
- 2015年9月
- 2015年8月
- 2015年7月
- 2015年6月
- 2015年5月
- 2015年4月
- 2015年3月
- 2015年2月
- 2015年1月
- 2014年12月
- 2014年11月
- 2014年10月
- 2014年9月
- 2014年8月
- 2014年7月
- 2014年6月
- 2014年5月
- 2014年4月
- 2014年3月
- 2014年2月
- 2014年1月
- 2013年12月
- 2013年11月
- 2013年10月
- 2013年9月
- 2013年8月
- 2013年7月
- 2013年6月
- 2013年5月
- 2013年4月
- 2013年3月
- 2013年2月
- 2013年1月
- 2012年12月
- 2012年11月
- 2012年10月
- 2012年9月
- 2012年8月
- 2012年7月
- 2012年6月
- 2012年5月
- 2012年4月
- 2012年3月
- 2012年2月
- 2012年1月
- 2011年12月
- 2011年11月
- 2011年10月
- 2011年9月
- 2011年8月
- 2011年7月
- 2011年6月
- 2011年5月
- 2011年4月
- 2011年3月
- 2011年2月
- 2011年1月
- 2010年12月
- 2010年11月
- 2010年10月
- 2010年9月
- 2010年8月
- 2010年7月
- 2010年6月
- 2010年5月
- 2010年4月
- 2010年3月
- 2010年2月
- 2010年1月
- 2009年12月
- 2009年11月
- 2009年10月
- 2009年9月
- 2009年8月
- 2009年7月
- 2009年6月
- 2009年5月
- 2009年4月
- 2009年3月
- 2009年2月
- 2009年1月
- 2008年12月
- 2008年11月
- 2008年10月
- 2008年9月
- 2008年8月
- 2008年7月
- 2008年6月
- 2008年5月
- 2008年4月
- 2008年3月
- 2008年2月
- 2008年1月
- 2007年12月
- 2007年11月
- 2007年10月
- 2007年9月
- 2007年8月
- 2007年7月
- 2007年6月
- 2007年5月
- 2007年4月
- 2007年3月
- 2007年2月
- 2007年1月
- 2006年12月
- 2006年11月
- 2006年10月
- 2006年9月
- 2006年8月
- 2006年7月
- 2006年6月
- 2006年5月
- 2006年4月
- 2006年3月
- 2006年2月
- 2006年1月
- 2005年12月
- 2005年11月
- 2005年10月
- 2005年9月
- 2005年8月
- 2005年7月
- 2005年6月
- 2005年5月
- 2005年4月
- 2005年3月
- 2005年2月
- 2005年1月
- 2004年12月
- 2004年11月
- 2004年10月
- 2004年9月
- 2004年8月
- 2004年7月
- 2004年6月
- 2004年5月
- 2004年4月
- 2004年3月
- 2004年2月
- 2004年1月
- 2003年12月
- 2003年11月
- 2003年10月
- 2003年9月
- 2003年8月
- 2003年7月
- 2003年6月
- 2003年5月