弁護士会の読書
※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。
2019年2月12日
鷹と生きる
鳥・人間
(霧山昴)
著者 谷山 宏典 、 出版 山と渓谷社
鷹使いとして生きてきた松原英俊氏の半生を紹介した本です。
こんな生き方もあるんだね・・・、驚嘆しながら一気に読了しました。
松原(以下、この本にならって呼び捨てします。他意はありません)は、慶応大学を卒業している。鷹使いを志して1974年9月に鷹匠に押しかけ弟子入りし、1年半後に独立した。
電気もガスも水道も通っていない山小屋に移り住み、鷹と暮らした。
鷹はクマタカ。居間にクマタカがいる。これが日常生活。
鷹匠は、かつて中央または地方の権力(天皇家や将軍家、または大名家)に属し、鷹の捕獲、飼養、訓練にあたっていた役職名。これに対して、鷹使いは、役職でもなんでもなく、鷹を飼養、訓練して鷹狩を行うことが出来た農民や猟師を指す。
山形県鶴岡市の田麦俣(たむぎまた)集落に生活していたが、今は同じ山形県内の天童市田麦野に住んでいる。
東北地方の山間農村部に伝わる鷹狩では伝統的にクマタカが用いられる。クマタカは翼を広げたとき、オスで1.5メートル、メスで1.65メートルになる。オオタカやハヤブサより大きい。獲物は鳥類、ヘビ、ウサギ、テン、リスなど。木々の間をぬって飛ぶのが得意なので、山岳地帯の森林での狩りに向いている。
クマタカは神経質なので、そのままの状態で人に慣れることはない。時間をかけた地道は訓練が必要。秋、10月下旬から11月ころ、鷹の訓練を開始する。訓練は5段階。据え、絶食、据え回し、呼び戻し、突っ込み。据えとは、鷹を腕に留まらせること。
鷹を慣らすためには、一に据え、二に据え、三、四がなくて、五に据え。据えは、鷹狩りにおける基礎中の基礎。鷹を人の腕に据えさせるためには、いくつかの段階を踏まないといけない。第一段階では、光の入らない真っ暗な部屋で、ほかの生きものの気配が感じられない環境の下でやる。鷹は何も見えず、飛べないため、おとなしく鷹使いの腕に乗る。暗闇のなかでの据えを数日間続けると、次に部屋のなかにろうそくを灯す。はじめは部屋の反対側にろうそくを置く、その薄くほのかな明るさに1週間ほど慣らす。そして、徐々にろうそくを自分と鷹のほうに近づける。1本の光に慣れたら、次にろうそくの本数を増やしていく。こうやって、鷹使いがすぐそばにいることにさせる。暗室での据えが十分できるようになったら、夜の居間で家庭用の照明の明るさに慣らす。次に夜明けごろの薄明かりの外光に慣らし、最終的には日中の明るい状態でも鷹使いの腕におとなしく留まっている状態にする。この据えの訓練には2週間から3週間かかる。
据えの訓練と同時に「絶食」も開始する。鷹は満腹の状態では、獲物を見つけても飛びかかっていかない。過度な絶食は鷹を餓死させてしまう。はじめに10日間絶食させて、その後、ウサギやニワトリなど脂身の少ない肉を与える。次に1週間、絶食させて肉を与え、5日間絶食させて肉を与え・・・と、徐々に絶食期間を短くし、餌の量を調整していく。
最後の仕上げは、「突っ込み」。獲物を捕まえるための訓練。勢子が雪原に獲物を放ち、鷹が逃げる獲物を目がけて一直線に飛んでいく。そして、鋭い爪でがっちりと獲物をつかみ、押さえ込む。これができるまで、1ヶ月半。長いと2ヶ月から3ヶ月かかる。
いやあ、大変な訓練ですよね。気が長い人でないとやれませんよね・・・。
もっとも鷹狩りに適している時期は2月末から3月、4月。
山に入ると、地図はほとんど見ない。目の前の地形を見て、狩りができそうな場所を探す。
鷹は、4キロ先にいる動物を見つける視力をもっている。狩りが成功する確率は、10回のうち、よくて3回ほど。ウサギは身をかわすのがとにかくうまい。
鷹が獲物をつかまえると、走って行って、取り上げる。そして、鷹が怒って泣き叫ぶので、餌箱の肉を少しほうびとして与える。鷹の好物の心臓やレバーをほうびとして与える。
ひと冬にだいたいウサギを10羽から15羽とる。昔はひと冬に平均200羽ほどとっていた。
ウサギの肉は、鍋や刺身にして食べる。ウサギの肉は1羽2000円、毛皮は50円ほどにしかならないので、商売にはならない。
鷹使いでは生活できない。それで、アルバイトをするし、生活でムダづかいはしない。
よくぞ、こんな生活で結婚できたと不思議です。山好きの女性とめぐりあい、子どもも出来ました。いやはや、すごい生活です。それでも、こんな人生を過ごす人が世の中にいることを知ると、なんとなく生きる元気が出てきますよね・・・。
(2018年12月刊。1600円+税)
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