弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2019年2月 3日

「ふたりのトトロ」

社会

(霧山昴)
著者 木原 浩勝 、 出版  講談社

『となりのトトロ』って、本当にいい映画でしたよね。子どもたちと一緒にみましたが、大人も十分に楽しめました。その『トトロ』の制作過程が手にとるように分かる本です。
宮崎駿監督と一緒に『トトロ』づくりに関わった著者は当時26歳。若さバリバリで、宮崎監督から「俗物の木原君」とからかわれていました。それでも著者は宮崎監督の近くにいて一緒にアニメ映画をつくれる楽しさを思う存分に味わったのでした。
子どもがみて楽しいと思う映画をつくるのだから、つくる人たちだって楽しまなければいけない。さすがですね、宮崎監督の考えは深いですね。
この本は『もう一つのバルス』に続く本として、一日に一気に読み上げました。というか、途中でやめると他の仕事が気が散って集中できなくなりますので、早く読了することにしたのです。読んでる最中は、こちらまで楽しい雰囲気が伝わってきて、心が温まりました。
動画などの制作現場は女性が多く、明るい笑い声が絶えなかったようです。やはり、みんな子どもたちに楽しんでもらえるいい映画づくりに関わっているという喜びを味わいながら仕事していたのですよね、胸が熱くなります。
この本には、制作過程でボツになった絵が何枚も紹介されています。一本一本の線、そして色あいまで丁寧に丁寧に考え抜かれているということがよく分かります。
『となりのトトロ』の目ざすものは、幸せな心温まる映画。楽しい、清々しい心で家路をたどれる映画。恋人たちはいとおしさを募らせ、親たちはしみじみと子ども時代を想い出し、子どもたちはトトロに会いたくて、神社の裏を探検したり樹のぼりを始める。そんな映画だ。
1980年代の日本のアニメは、1に美少女、2にメカニック、3に爆発。この3つがヒットの3要素で、華(はな)だと言われていた。『トトロ』には、この3要素がどれも含まれていない。
舞台は日本。日常の生活の描写や女の子の芝居を、より繊細な線で楽しんで書くことが基本だ。
誰かが楽しいのではなく、誰もが楽しい、つまりスタジオ全体が楽しくなる。こんなスタジオの雰囲気そのものを作品にも反映させたい。これが宮崎監督の作風だ。
宮崎監督は常にスタジオ内の自分の机に向かっている。監督は、作品を監督するだけではない。常に作品をつくる現場を監督しているから監督なんだ。宮崎監督は、愚直なまでに監督として徹底した。
また『トトロ』をみたくなりました。あの、ほのぼのとしたテーマソングもいいですよね。
(2018年9月刊。1500円+税)

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