弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2019年1月19日

「アメリカ彦蔵自伝1」

日本史(江戸)

(霧山昴)
著者 ジョゼフ・ヒコ 、 出版  平凡社

著者は1873年(天保8年)生まれ、太平洋を漂流し、助けられてアメリカで国籍もとって幕末の日本に通訳としてやってきました。
1862年(文久2年)に刊行した『漂流記』は、江戸時代としては唯一の漂流記でした。
この本を読むと、意外にも多くの日本人が漂流してアメリカの地を踏んでいます。
生地は播磨国の宮古村(兵庫県加古郡播磨町)。
彦蔵は、アメリカで14代の大統領フランクリン・ピアースに会見したうえ、暗殺前のリンカーン大統領にも会っています。
イギリス領事(あとで公使)のオールコック(当時50歳)とも面識がありました。
彦蔵は、日本では、アメリカ市民として行動していました。久しぶりに実兄と再会したとき、兄は疑っていたのでした。そこで、彦蔵が町内の誰彼の名前をあげて、いろいろ尋ねたことから、ようやく本当に自分の弟だと納得したのです。
「とうとう、うれしそうなほほえみが兄の顔にひろがり、口もとがほころび、ついに兄はわっと泣き出し、大粒の涙が頬を流れ落ちた。もう、二人のどちらも、ことばも出なかった」
幕末の日本は殺伐としていました。暗殺が続きます。ついに桜田門外の変が起きて、井伊直弼が暗殺されます。井伊大老のことを彦蔵は「摂政」と呼んでいます。
そして、そのころアメリカでは南北戦争が展開中でした。日本では、生麦事件のあとイギリス艦隊が鹿児島を砲撃し、また、連合艦隊が長州藩を下関で壊滅させます。
日本人でありながらアメリカ国籍をとって日本に戻り、通訳そして実業家として活躍した人物の目を通して幕末の世相が語られています。大変興味深く読みました。
(2003年9月刊。3400円+税)

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