弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2018年12月27日

「身体を売る彼女たち」の事情

社会

(霧山昴)
著者 坂爪 真吾 、 出版  ちくま新書

JKビジネスは東京都内では条例によって禁止された。
JKビジネスとは、現役のJKつまり女子高生らが男性客相手に添い寝やマッサージ、散歩の相手を行うサービスの総称。
本書は、JKビジネスの業態の一つである「派遣型リフレ」を主な対象としています。店舗は存在せず、女性が直接に客の待つホテルの部屋を訪問してサービスを提供する仕組み。一般的な性風俗店とは異なり、リフレに決まったサービスメニューはない。どのような内容のサービス(オプション)をいくらで行うかは、女性と客との交渉で決まる。オプションで得られた料金はすべて女性の取り分になるため、いかに客を引き付ける魅力的なオプションを提供できるかどうかが、派遣型リフレで稼げるか否かの分かれ目になる。
最終的には手や口で射精に導くこともあり、性風俗との境界線は、かなり曖昧だ。
JKビジネスの現場にいるのは、「JK風」の女の子たち。現実の女子高生ではなく、専門学校生や大学生、そしてフリーターだ。
彼女らは、JKビジネスの危険性を知らないでやっているのではない。JKビジネスで働くリスクとリターンを冷静に計算したうえで、期限付きの自らの若さと肉体の商品価値を最大評価で換金することを目ざして、あえてこの世界に巻き込まれている。
派遣型リフレは、必ずしも貧困ではない少女たちが、積極的かつ自覚的に自らの性をきめ細かく商品化して、荒稼ぎしている世界だ。彼女たちは、全員が貧困少女でもないし、必ずしも救いや関係性を求めているわけではなく、学費や趣味のために淡々と働いている。
派遣型リフレは大きく分けて三つのリスクがある。一つは、身体的リスク。本番強要などの性暴力被害、性感染症、盗撮・ストーカー。その二は、メンタル面のリスク。単独行動中に嫌な目にあっても、自分ひとりでかかえこむしかない。友人にも話せない。三つは、20歳の壁。リフレで破格の売上を手にできるのは、せいぜい20歳前後まで。
風テラスという、性風俗で働く女性を対象にした無料の生活・法律相談事業があります。弁護士とソーシャルワーカーがチームをつくっていろんな相談に対応しているのです。そのなかには、九州の法テラスで活躍していた浦崎泰弁護士もいます。
生活保護は嫌です。
車が使えなくなると、困るんです。
家族に役所から連絡が行くのが嫌なんです。
生活保護よりもデリヘルで働くことを彼女らは選ぶ。
扶養照会や資力調査、ケースワーカーの訪問といった「社会的な恥」に耐えながら、不自由な暮らしのなかで、生活を立て直す道を選ぶか。それともホテルの密室で、初対面の男性の前で全裸になるという「個人的な恥」に耐えながら、デリヘルで働いて自由な暮らしをする道を選ぶのか。
デリヘルは、月10日出勤するだけで15万円は稼げる。無料低額宿泊所よりも、性風俗店の待機部屋のほうが「自由に過ごせる」、「居心地がいい」と感じる女性が確実に存在する。
待機部屋には、事情をかかえた女性たちがやむにやまれず身体を売っているといった悲壮感は一切感じられない。
安易に脱ぎや本番に走ると、結果的に稼げなくなる。デリヘルの世界は、本番をするだけで稼げるほど甘い世界ではない。本番嬢は長続きしない。
女性が性風俗で働く理由の大半は、マクロな視点で見たら、「自分のせい」ではなく、「社会のせい」だ。ところが、女性自身は現在自分の置かれている状況をすべて「自分のせい」だと考えている。
現代社会で何が起きているのか、よくよく考えさせられました。
私が現在かかえている案件のうちの二つで、夫(男性)側の主張として、妻(女性)は風俗で働いていたことを問題としています。本当にデリヘルは身近な問題なのだと実感して読みました。
(2018年10月刊。1600円+税)

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