弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2018年12月10日

語りかける身体

人間

(霧山昴)
著者 西村 ユミ 、 出版  講談社学術文庫

「植物人間」との対話が可能なんだと実感させる本です。
植物人間状態とは、一見すると意識が清明であるように開眼するが、外的刺激に対する反応、あるいは認識などの精神活動が認められず、外界とコミュニケーションを図ることができない状態をいう。植物人間状態になる原因は、脳出血、くも膜下出血、脳梗塞などの脳血管障害、頭部外傷、脳腫瘍などさまざまである。このような患者の脳組織は、大脳皮質のうちの新皮質や辺縁皮質の機能が遮断された、あるいは脱落した状態である。
睡眠と覚醒のサイクルが区別され、自力による呼吸も心血管系の機能も正常である。これは、自律神経機能(植物性機能)が比較的よく保たれていることを意味する。そのため、適切に管理されると、長期にわたって生存することが可能となる。植物人間状態になって10年以上生存している患者が報告されている。1986年に全国に植物状態患者が7000人いると推定されていた。
ところが、担当する看護師が声かけして、「分かったら、目パチッとしてください」とか「口を動かしてください」と言ってコミュニケーションをとると、それに答えてくれるようになる。
医療現場での癒しというのは、患者だけが癒されているのではなくて、その周りにいる者も癒されている、患者によって癒されている。
お昼よって持って来るご飯と、おやつよーって持って来るケーキとでは、まったく患者の笑顔が違う。ケーキを見せてやろうと思うワクワク心を察知してくれて、それって超能力に近いけれど、ニヤーっと笑ってケーキにかぶりつく。
この本に映画『ジョニーは戦場に行った』が紹介されています。私も何十年か前に観ましたが、衝撃を受けました。ベッドで寝たきりで、生ける屍(しかばね)と思われていたジョニーが、実は意思ある人間として生きていたことが判明するというストーリーなのです。例のホーキング博士のように、身体のわずかな動作によって意思表示はできるものなんですね。
視線が絡む(からむ)というコトバがある。視線は、単に五感の一つである視覚の働きとして機能しているのではなく、視覚に限定されない感覚として働く。
ところが、視線が絡(から)まないとは、底なし沼、真っ暗で、その先に何もないような気がする。
人間とは何か、人が生きるとはどういうことなのかという根源的な問いかけがなされている本だと思い、最後まで興味深く読み通しました。
(2018年10月刊。1110円+税)

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